Dai Matsumoto Interview about『A Dream Of Dreams』 / OTHER
『A Dream Of Dreams』――「夢から醒めた夢」。 これはLAMP IN TERRENという名を冠したひとつの節目となる作品であり、そしてワンマンライヴのタイトルである。フロントマン松本大が刻んだこのタイトルには、今語るべきすべてが詰まっていた。
「この世の微かな光」という意志を込めたバンドの旅路、彼が見続けていた夢と憧れ、辿り着いた音楽への眼差し、そして未来へ心が動いた瞬間と新たな決意――このタイミングだからこそ訊くことができた、松本大の虚飾のない言葉を是非見届けて欲しい。LAMP IN TERRENのフロントマンとして、ラストインタヴューを此処に贈る。(text&interview:黒澤圭介)
俺の魂はLAMP IN TERRENの中にあった
■今回のインタヴューは12月8日、つまり『A Dream Of Dreams』というEPのリリース日に行ってます。まずはリリースおめでとう。既に色々な反応があったかと思いますが、どうでした?
「ありがとう。……よかったと思うな、うん」
■今までのリリースとは、また違うものだったと思います。大喜(川口大喜/Dr.)の脱退発表、そして大(松本大/Vo.&Gt.&Pf.)がツイキャスを通して伝えた、LAMP IN TERRENというバンドの活動を今年で停止させるという発言を経てのリリースだったわけで。
「俺自身は特別な何かを感じてはいないんだけど、リスナーはやっぱりそうなんでしょうね。『これが最後か』って声はやっぱり多く見たし……でも俺としては『LAMP IN TERRENとしてはね?』って気持ちで見てたかな」
■「LAMP IN TERRENとして」という言葉そのものが、今のキーワードなのかなと思っていて。
「うんうん。今、自分の中で、ものづくりの価値観が変わってきてるんだよね。バンドというよりは、松本大という個人的な感覚で曲を創っていて。音楽を何処で増幅させるのかって話なんだよね。今までは、LAMP IN TERRENという拡声器を使って曲を出してきたという感覚がずっとあったけど、これからはそうじゃなくなるというだけでーー俺としては終わるという感じはないんだよね。ひとりの人間が人生を続けていく上で、何処から曲を出すのかが変わるっていうだけ。だから、これまでと同じようにリリースすることができてよかったという感じかな。特に“カームダウン”に関しては披露してから10カ月くらいお客さんを待たせていた曲だから、届けることができて単純によかったと思う」
■今回のEPに収録されている楽曲は、すべて今年制作したものだよね。音楽性自体は異なる3曲だけども、どれも大が自分のことをより強く見つめた末の楽曲になっているなという感触があります。
「そうかもしれないね。だからこそ、ある意味で聴いてくれる人にとっても自分のものとして聴いてもらえてるのかなとも思う」
■まさにそう思う。バンドサウンドだけでやっていた時代とは一線を画すけど、凄く肌感を感じる暖かみがある。それはきっとダビングで重ねた大の声の存在や、しなやかな歌い方がそうさせているのかなと思った。大自身のパーソナリティが変化してきたところも大きいよね。
「あんまり、エンタメみたいな気持ちで曲を創っていないからかも。精神的な話で言えば、ここ10年間でようやく高校生くらいになったかな。高校生くらいになると、大抵の人たちは自分の進路を考え始めるじゃない……大学に行くとか、就職するとか。そういうタームに、29歳でようやく入ってるなって感じがする。ある種の憧れとか、バンドってカッコいいとかーー楽しいイメージだけでやってきたって感覚が凄くあるから。続ける上での苦しみとか、人付き合いの面で衝突とかは沢山あったけど、誰かに音楽を歌う/届けるってことがどういうことなのかを考えて社会と向き合う/関わるってことを最初に考えられたのって『FRAGILE』(2020年10月リリース)からだったりするんだよね。『fantasia』(2017年4月リリース、3rd Album)ぐらいから聴き手のことを考えて創ってるって口では言ってたけど、結局どれだけ自分の話を聞いてもらえるかに注力していた気がする。だから、ちゃんと『FRAGILE』以降の延長線上に今回のEPはあるなと思う」
◾️これは何度も話してきたことのような気がするけど、“いつものこと”(2019年12月リリース『Maison Diary』収録)という楽曲は、やっぱり大きな転換期だったのかなと思う。今までになく自らの赤裸々な日常と感情を曝け出したあの楽曲は、大の想像を遥かに超え、聴き手にとって「自分ごと」として受け入れられたじゃないですか。
「そうだね、それまではそういうことはしなかったからね」
◾️自分が抱えている想いや感情は、何も自分だけのものではないんだなという実感を持てたと思うんだよね。だからこそ、自分のことを歌っていても、聴き手/社会が存在する歌に変貌していったのかなと思う。
「うん、もっと早くそうなりたかったとは思うけどね(笑)」
◾️(笑)。そんな変化を経て辿り着いた最新作は、バンドとしてではなく個人的な感情で楽曲を創ったと言っていたね。“カームダウン”の<他のどこにもない僕だけの世界だろ>っていうラインや、“ニューワールド・ガイダンス”の<全部捨て去って>という言葉がとても印象的で。聴き手にとって自己投影できる言葉ではあるのだけども、今一度、大が自分自身を取り戻そうとしているニュアンスを強く感じたんだよね。
「……自分の印を創るって感じだったのかもしれない。それぞれ楽曲のテーマが大前提としてある上で……その発想自体が自分のものとして曲を創っていたということかもしれないんだけど、何処か自分に言い聞かせたい部分があって、出てきた言葉かもしれない。……ぶっ壊れそうな感覚が最近凄くあったから。じゃあ、壊しちゃえ!っていうのはあったかもしれない。投げやりになっているってわけではないんだけど」
◾️頭の中が煩いって感じかな。
「そうね、それはある(笑)。昔よりだいぶ煩くなったと思う」
◾️それはなんでだろうね?
「うーん……独りで生きているわけではないって自覚したからかな」
◾️大に訪れた他者や社会と生きているって自覚は、眼に映るものや自分の中にある感情の情報量が何十倍にもなるってことで。外的要因がある故に、自分という輪郭の中に対してより深く入っていけてるのかなと。
「そうね、潜ると浮かんでくるって作業が曲作りの中に生まれたって感覚はあるかも。前まではずっと見渡している感じだったんだよな。バーっと広い図書館みたいな場所で、自分に必要なものを手に取っていくって感じで曲を創ってた。その時はメロディに言葉がハマらない!みたいな精神的なストレスがあって。でも、今回は自分の中を探っていく/潜っていくって感覚ーー精神的なストレスはないんだけど、潜って見つけて、潜って見つけて……スポーツみたいな感覚だった。ーーさっき言ってくれた自分を取り戻す感覚ってのは、バンドから自分を取り戻すってことだったのかもな。俺の魂って俺の中になくて、LAMP IN TERRENの中にあったの。それをまた自分の中に宿すっていうことはあったかもしれない」
◾️まさにそう思う。この言葉を聞いた人は、大がテレンを続けることに疲れちゃったのかな?と思ってしまう人もいるかもしれないけれども、そういうことではないよね。ひとりの人間として楽曲を創っているはずだけど、会社員が会社の方針に自然と従っているように、テレンとしての正しい音楽の姿みたいなものが、大の中に入り込み過ぎてしまっていたのかなと思ってて。大が大として創作をするというところに、立ち戻る音楽が生まれたのは必然なのかなって思う。
「うん、それはすげぇわかる。確かに」
区切りであると同時に続いていく感覚
◾️その上で訊きたかったのは『A Dream Of Dreams』というタイトルについてなんです。テレンとしてラストとなるワンマンライヴやEPには、何故このタイトルを付けたのかな?
「これは、俺の始まりに物凄く関わってくるというか。中1の時に、学校の行事の一環でお芝居をしたのね。真ちゃん(大屋真太郎/Gt)は確か体育で跳び箱とかをやってて(笑)。その他に、パソコンでCGを作るっていうコースと演劇のコースがあったんだよね。俺は面白そうだなって思って、演劇のコースを選んだんだよ。そこでやることになったお芝居が『夢から醒めた夢』っていう劇団四季がやっているお話で、英語のタイトルだと『A Dream Of Dreams』って何かで見たことがあったんだよね。ーー俺のステージの原体験ってそこだから。学校の体育館の上。当時は歌うことは好きではなかったけど、何かを表現するっていうことの原体験はそこで、テレンとしては最終的にリキッドルームっていう場所になる。俺の表現するってことへの憧れは、あの学校の体育館で始まったから……自分の区切りとなる言葉を使いたかったんだよね」
◾️自分の原体験と繋がったタイトルであるということは、やっぱり立ち戻りたいという気持ちと、新たなスタートへの想いがしっかり存在していたんだね。辿ってきた旅路に一度区切りを打つには、ジャストな言葉だったんだ。
「振り返ってみると、今まで俺はアルバムごとに試練をクリアしてきたって感覚があって。『silver lining』(2015年1月リリース、1st Album)と『LIFE PROBE』(2015年7月リリース、2nd Album)の頃は、基本的に憧れを源泉に曲を創ってきて。3rdの『fantasia』では音楽の音像感がもたらすものは何かーー日常の中にあるものからファンタジーを見つけて、音で表現するという試練。『The Naked Blues』(2018年12月リリース、4th Album)では松本大が松本大である意義ーー詩人として自分はどうなの?っていう課題があった。自分の空想の中で曲を創りながら世界を見て、『バンドってカッコいいよね』『世の中っていいよね』『歌うって素晴らしいかもね』とか思いながら曲を創っていた自分に、『本当にそうなの?お前逃げてるだけじゃね?』って問いかけがあったのが『The Naked Blues』だった」
◾️そこから次の『FRAGILE』で大きな変化があったと。
「そう。社会とどう向き合っていくのかーー『お前は結局人に音楽を届けているわけだから、孤独でい過ぎるのはよくないよ、社会と向き合わなきゃ駄目だよ』って課題を持ったのが『FRAGILE』だった。だから今回のEPは、俺の中でその全部の気持ちを持ちながら、感情だけで曲を創らないってことが課題で。どうしても俺は気持ちで曲を創ってしまうから、俺の曲って俺が歌って一番力を発揮する曲たちだったと思うんだよね。それはいいところも悪いところもあるんだけど、音楽である以上は他の人が口ずさんでも、凄い名曲になるものでありたいって思ったの。他の人にも聴くだけじゃなくて歌って欲しいって考えた時に、今の自分の曲の創り方じゃ駄目だって思って、音楽的に自分の気持ちの使い方を解釈した結果が今回のEPだった。此処から、ようやく俺は自分のことをミュージシャンって言えるんじゃないかって思ってて」
◾️職業として、ということだよね。
「そう。だから区切りをつけるんだったら、これまでの音楽をやってきた15年、もっと言えば演劇から数えると16年ーーその最初と最後が同じものだったら自分の中で気持ちがよかったんだよね。区切りであると同時に続いていく感覚があるから、このタイトルにした」
◾️うんうん。実は、俺は「Dream」という言葉自体にドキっとしたんだよね。言ってみれば、LAMP IN TERRENというものは夢みたいなものだったのかな?とも捉えられるじゃない。子供の空想ーーもっと悪い言い方をすれば遊びのようなもの。続いていく感覚以上に、夢を見ていられる最後の日だよ、ってタイトルに感じたんだよね。
「まぁ、それは往々にしてあるよ(笑)。表裏一体だからね。自分でも滅茶苦茶思ってたよ、夢の終わりだなって。……でもその先も続いていくのよ、バンドというもの自体は続けるという選択を取ったから。それでも、自分が小っちゃい頃から掲げていた夢とか理想ってものが終わるんだろうなっていう想いは凄くある。ただ……終わらせることを自分自身の手でできるとも思う。このタイミングに区切りとして杭を打つのは、俺としては凄く筋が通ってるのよ。リセットボタンを押したいわけじゃないし、俺は終わるとも別に思ってないんだけど、LAMP IN TERRENという枠から飛び出すっていうのは、今の自分だからこそ必要なことだと思う。だって、夢とか幻想とか理想っていうものでLAMP IN TERREN自体が創られたものだから。ただの一人間になることが、今俺にとって必要なことなんだと思うんだよ」
LAMP IN TERRENは記憶だった
◾️夢から醒めるきっかけは色々あったと思うけど、大喜が抜けるってことは間違いなくそのひとつではあったと思うんだ。やっぱりこのバンドは、4人で鳴らす音楽って感覚が大の中にはあるんだよね?
「うん。それこそ、大喜が脱退の話を言ってきて一気に眼が醒める感覚はあった。大喜が辞めるって言ってなかったら、俺は今でも夢を見てると思う。今まで考えてなかった、凄くリアルな話を介入してくるなって感じだった。ふと自分がやっていることを考えてみると、音楽を創るってことよりも、この夢を続けることーーメンバーとの関係性を続けていくことの方にプライオリティが高くなっている感覚があって。だから、他のやつがドラム叩いてもしょうがないなって思ったんだよね。曲は曲で別に生きているものだとは思うんだけど、LAMP IN TERRENっていう枠自体が物凄く強制力のあるものになっちゃってたっていう」
◾️大喜も同じようなことを言ってたんだよね。最終的に、大とふたりで話していた時に「もういいんじゃない?」って大に言われて、肩の荷が降りてスッとした感じがしたと。
「うんうん、言った。あいつは勝手に色々なものを背負っていたからね」
◾️その大喜の感覚は、何かから解かれるという感覚だったんだと思うんだ。だからこそ、テレンっていう夢を見続けようとしていたのは、大だけではなかったとは思うんだよね。
「実は大喜から脱退の話がある前に、ちょっとバンドやスタッフと揉めたことがあったのよ。ある場面で俺だけがいろんな意見を言っていて、メンバーが何も言わないでいたのね。バンドにとって凄く大事な話だったのに、お前ら本当にそれでいいのか?って俺はその時思って。そこで『お前らが本当にやりたいことってこれじゃないんじゃないの?』って問いかけを俺がメンバーにしたことから、この話って始まってるんだよね。必死だったのは俺だけだったのかな?って……期待してた自分がいて、ガッカリしたって言う感覚はあった。だから俺はシンプルにこのままではよくないって思ったし、大喜が脱退の話をしてきたのも凄く理解できた。正直、真ちゃんとか健仁(中原健仁/Ba)も同じことを言ってくるかなと思っていたけど、ふたりはバンドを続けたいって言ってきたから、そこは改めて考えようってなったんだよね。もちろんテレンを続けようって案も最初あった……でもね、LAMP IN TERRENっていう名前が持っている枠には凄く強制力があって、何処を向いてもワクワクできなくて光が見えないって感じがあったのね。で、結果としてテレンの活動は停めて、違う形でバンドをやっていくって決断を選んだ。だから『いいんじゃない?』って大喜に言ったのは、俺は『知ってたよ、だと思ったよ』って感覚だった。大喜の抱え方って凄い歪なのよ」
◾️うん、しかも大喜って実は繊細で思い悩むタイプだからね。
「あいつは、ずっと俺をライバル視してたと思う。昔はバンドの中心人物として活動していた大喜と、今バンドの中心にいる俺ーー大喜は凄い髪を伸ばしてみたり、髭を生やしてみたり、兎に角、俺には従わないっていうスタンスがずっとあった。ただ、俺はそれでいいと思ってたのね。でも何処かのタイミングから、そこに疲れたのかなぁ……わかんないけど、凄く距離を取るようになったの。だから俺も『いいんじゃない?』ってあいつに言ったと思うんだよね。解放したくなったというか。仮に俺がソロのアーティストとして3人を従えている状態だったら、こんな色々考えたりしないと思うのよ。たぶん俺が一番バンドに固執してて、居場所だと思ってた。だから曲作りもするし、予算がなければMVも自分で考えるし、ジャケットも描くし、グッズも作るーーやらなきゃいけないことは、全部やってきたのよ。ただ、そういうところも含めて凄く子供だったなって今は思う。誰かに何かを任せることができれば、もしかしたら違ったのかなとも思うよ。今、結局どっちが正しかったとは言えないけど」
◾️LAMP IN TERRENはバンド名に「この世の微かな光」っていう意味を宿していて。そして、バンド名に凄く忠実なバンドだったと思うの。
「……そうだね」
◾️ここまでバンド名に忠実にやってきたバンドって中々ないと思うんだよ。音楽性と共に歌詞のコアみたいなものも変化してしまうことは往々にしてある話で。でも、テレンは音楽性が変わっても、バンド名が持つ意味合いの傘の下で歌を歌い続けたと思うんだ。でも、聴き手が携えるランタンのような音楽であり続けるためには、そもそも自分たちが携えている光がなくなっちゃたら、その音楽は創れないじゃない。
「……うん、そうだね」
◾️その携えてた光の一番根幹にあったのが、大にとってはメンバーと一緒に過ごしてきたこと時間そのものだったのかなって思うんだよね。
「そうだね、記憶だったね」
◾️ひとりのメンバーが共に過ごしてきたステージから降りることで、その記憶は一回途切れる。だからLAMP IN TERRENという名前での活動を停止します、という選択はとても筋の通った話だと思います。
「うん、俺も自分なりの筋の通し方をしたと思ってる」
俺は未来に必要な物しか選ばない
◾️だからこそ、テレンという夢の終わらせ方はとても重要になるよね。まだまだ続いていく大たちの音楽人生にとって「終わる」という言い方は正しくないかもしれないけど、それでもやっぱり「終わる」日がリキッドルームでのライヴになると思うんだよ。
「うん。それでも、俺は未来について考えるっていうテーマしか持ってない。だから過去には縛られない。普通ラストライヴって、過去から現在までの楽曲を満遍なくやるものだと思うんだけど、俺は未来に必要なものしか選ばない。俺の一存のように聞こえるかもしれないけど、ここは全員が共通認識としてそう。バンドが終わるから、大事にしてきた15年間を攫ってみんなの思い出と共に過ごすっていうライヴが、いわゆるバンドシーンにおける真っ当さだと思うのね。俺はそんな綺麗な終わり方をするつもりはないんだよ。『この曲が聴きたい』みたいな感情を持って、ライヴに来ることは価値があることっていうことは凄く理解もできるんだよね。でも俺はそれを凌駕するくらい、未来のことを考えるっていうセットリストにしたいし、そういう歌を歌いたい。そういう想いがないなら、俺はLAMP IN TERRENとしての活動を終了しますってわざわざ言う必要さえないと思っているから。だから、そんなライヴになるんじゃないかなって思ってる」
◾️過去を攫うという話で言えば、ベストアルバム『Romantic Egoist』を全曲リテイクで制作したよね。どうしたって今のタイミングでベストアルバムという話を聞くと、過去を精算するためのものとして捉えられかねないと思うんです。ただ、この制作が決まったのは大喜の脱退も活動停止の話も出る前だったじゃないですか。
「本当にそんな予定はまったくなかったし、単純に楽しい企画をやろうっていう意識だったからね。結果的に、自分たちにとっても整理をする時間になってしまったというか。正直、大喜が辞めるってなってから、なんでこのアルバムを制作するんだろうって思ったしね。そういうことをしたかったんじゃない、だからこういうタイミングで辞めるなんて言うなよ!とも思ったし(笑)。……でも創ってよかったと思うね。お別れ作業とかじゃなくて、これはタイムカプセルなのよ。だから創るべきものだったと思う、個人的にはね」
◾️LAMP IN TERRENという名前も音楽も消え失せるわけではないし、大はもちろん、健仁も真ちゃんも大喜も音楽を続けていくわけだから、お別れのためのものとは違うよね。それに加えて、今リテイクという形で過去の曲と向き合っていなかったら、生まれ変わったバンドで過去の曲を演奏する可能性がゼロになってしまったんじゃないかとも思った。その過程を踏んだからこそ、未来でも鳴らしたいものが見つかったかもしれない。
「うんうん、確かに。それはそうだね」
◾️だからこそ、タイミング的にはたまたまだったかもしれないけど、今とても大切なものになったんじゃないかと思う。そんな未来への道標にもなるベストアルバムって、あまり例を見ないんじゃないかな。
「ーーうん、やってよかったなと思うよ」
ロックバンドって生き様だと思ってる
◾️そこで、改めて『A Dream Of Dreams』ーー『夢から醒めた夢』という言葉とワンマンライヴの話に戻らせてください。LAMP IN TERRENというものは、お客さんとも共に創り上げた夢だったと思うんです。“ニューワールド・ガイダンス”という最新曲にも<夢が醒めた後の世界>という歌詞があるけども、リスナーと一緒に夢から醒めるための時間になるのかな。
「28日のライヴって、LAMP IN TERRENってものを背負ってはいるけど、ステージに立っているのはもうLAMP IN TERRENではない気がする。メンバー全員そうなんじゃないかな、と思うよ。テレンとしてではなく個人の旅立ちーーだからこそ、さっき過去に拘らないで未来のことを考えたいって言ったんだよね。少なくとも俺はLAMP IN TERRENの松本大ではなくて、ただの松本大としてステージに立つと思う」
◾️夢見心地の時間から抜け出した4人が、夢の中で創った楽曲をステージで鳴らす、最初で最後の時間になるかもしれないね。だからこそ、これからも続いていくストーリーの一部であるという側面がありながらも、ひとつの物語の第1章が完結するような日になればいいな、と思ってます。
「過去を雑に考えてるわけではないんだよね。まだセットリストも決めてなくて。ただ、LAMP IN TERRENの歴史みたいなものを完全に無視したライヴをすれば、当然反論も出るとは思ってるしーーそこに勝てるかどうかかな。一人ひとりの中に、俺らの好きなところ/嫌いなところってあると思うんだよね。この曲好きだったのにやってくれないのか!とかさ。自分の筋を通すために、俺はそういう想いを凌駕しなきゃいけないと思う。『この世の微かな光』っていうバンドをずっと全うしてきて、そこから新しい世界に向かうと同時にバンドを終了させる上で、優しく受け止めてもらう方法も幾つか考えつくのよ。でも、納得してもらえるかな?なんて安パイな方法で、自分の通して来た筋を曲げたくないっていう想いはあるのね。だから、その想いに気づいて欲しいなって思う。ーーでもね、今回の対戦相手って日本の歴史みたいなところがあると思うんだよ(笑)」
◾️ははは(笑)。確かにそうかもね。
「日本のチャートに存在している音楽も世界から見ると異質で。そのチャートにいる音楽は耳触りがよくてキャッチーなもので、ちゃんとお客さんに対して気が遣えるものなのよ。だけど、俺は自分の筋を通していたくて、いつも自分の行動に理由が見つかるまで行動してこなかった。だから、傷つける形になったこともあったかもしれない。だから、社会に向き合えるようになった今の自分の対戦相手は日本の文化なんだよね」
◾️今こそ立ち向かえるって言い方もできるよね。ただ、シンプルに考えるとほとんどのお客さんはLAMP IN TERRENという存在の終焉を美しい思い出にするために、ライヴ会場に来ると思う。そのお客さんの感情を凌駕して、この先の4人の未来にワクワクするという感情を抱かせることができるかーーそれができれば、きっと大にとっても、メンバーにとってもいいライヴだったと言える日になるんだろうね。
「そうだね、そう思う。だから、感動させる気ってないのよ。特に最近の日本は空気の読み合いで成り立っていると思うことが多いのね。自分の感情を殺して、息を潜めて生活している人もいる。だからこそ、中途半端な言葉を俺みたいな立場の人間は使っちゃいけないと思う。なんとなく『こう言っておけばいいだろう』みたいなものづくりはしたくない。ロックバンドって、俺は生き様だと思ってるから。真剣に向き合った上で、自分の生活から出てくるようなものを曲にするーーそういう生き様を見せることで、ようやく誰かの生活に寄り添うものが創れるんじゃないかと思ってて。今まで15年音楽をやってきて、どの瞬間も滅茶苦茶死ぬ気でやってたと思うのよ。一生懸命憧れたし、一生懸命自分をぶち壊してきた。対応して、鍛えてきた。だから、バンドマンとしての意地は絶対通す」
◾️まさにベストアルバムのタイトルの『Romantic Egoist』だね(笑)。
「そうだね、そうかもしれない(笑)。めっちゃ自信はあるんだけど、大いなる不安もある……でも、全員を送り出したいな、俺は」
◾️みんなで一緒に夢から醒めることができるかどうかは、4人に懸っているね。
「いやその役目は俺だな。誰にも譲れないのよ。で、他のメンバーも絶対そう。お客さんもそれぞれ誰にも渡せない正しさで向かってくると思う。ただ、ここで話したのは松本大の考えであり言葉だから、今日話した話は全部俺が背負っていくよ」
◾️会場にいる全員が未来に対してワクワクしたら、きっと正解だよ。いい夜を期待しています。
「確かに! そうだね、頑張るよ」
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ワンマンライブ『A Dream Of Dreams』
12月28日(火)東京・LIQUIDROOM ebisu
19:00START予定
配信ライブチケットはコチラ
※12月31日(火)23:59までアーカイヴ視聴可