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LAMP IN TERREN

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2021.12.16

Dai Matsumoto Interview about『A Dream Of Dreams』 / OTHER

『A Dream Of Dreams』――「夢から醒めた夢」。 これはLAMP IN TERRENという名を冠したひとつの節目となる作品であり、そしてワンマンライヴのタイトルである。フロントマン松本大が刻んだこのタイトルには、今語るべきすべてが詰まっていた。

 「この世の微かな光」という意志を込めたバンドの旅路、彼が見続けていた夢と憧れ、辿り着いた音楽への眼差し、そして未来へ心が動いた瞬間と新たな決意――このタイミングだからこそ訊くことができた、松本大の虚飾のない言葉を是非見届けて欲しい。LAMP IN TERRENのフロントマンとして、ラストインタヴューを此処に贈る。(text&interview:黒澤圭介)


俺の魂はLAMP IN TERRENの中にあった

■今回のインタヴューは12月8日、つまり『A Dream Of Dreams』というEPのリリース日に行ってます。まずはリリースおめでとう。既に色々な反応があったかと思いますが、どうでした?

「ありがとう。……よかったと思うな、うん」

■今までのリリースとは、また違うものだったと思います。大喜(川口大喜/Dr.)の脱退発表、そして大(松本大/Vo.&Gt.&Pf.)がツイキャスを通して伝えた、LAMP IN TERRENというバンドの活動を今年で停止させるという発言を経てのリリースだったわけで。

「俺自身は特別な何かを感じてはいないんだけど、リスナーはやっぱりそうなんでしょうね。『これが最後か』って声はやっぱり多く見たし……でも俺としては『LAMP IN TERRENとしてはね?』って気持ちで見てたかな」

■「LAMP IN TERRENとして」という言葉そのものが、今のキーワードなのかなと思っていて。

 「うんうん。今、自分の中で、ものづくりの価値観が変わってきてるんだよね。バンドというよりは、松本大という個人的な感覚で曲を創っていて。音楽を何処で増幅させるのかって話なんだよね。今までは、LAMP IN TERRENという拡声器を使って曲を出してきたという感覚がずっとあったけど、これからはそうじゃなくなるというだけでーー俺としては終わるという感じはないんだよね。ひとりの人間が人生を続けていく上で、何処から曲を出すのかが変わるっていうだけ。だから、これまでと同じようにリリースすることができてよかったという感じかな。特に“カームダウン”に関しては披露してから10カ月くらいお客さんを待たせていた曲だから、届けることができて単純によかったと思う」

■今回のEPに収録されている楽曲は、すべて今年制作したものだよね。音楽性自体は異なる3曲だけども、どれも大が自分のことをより強く見つめた末の楽曲になっているなという感触があります。

「そうかもしれないね。だからこそ、ある意味で聴いてくれる人にとっても自分のものとして聴いてもらえてるのかなとも思う」

■まさにそう思う。バンドサウンドだけでやっていた時代とは一線を画すけど、凄く肌感を感じる暖かみがある。それはきっとダビングで重ねた大の声の存在や、しなやかな歌い方がそうさせているのかなと思った。大自身のパーソナリティが変化してきたところも大きいよね。

「あんまり、エンタメみたいな気持ちで曲を創っていないからかも。精神的な話で言えば、ここ10年間でようやく高校生くらいになったかな。高校生くらいになると、大抵の人たちは自分の進路を考え始めるじゃない……大学に行くとか、就職するとか。そういうタームに、29歳でようやく入ってるなって感じがする。ある種の憧れとか、バンドってカッコいいとかーー楽しいイメージだけでやってきたって感覚が凄くあるから。続ける上での苦しみとか、人付き合いの面で衝突とかは沢山あったけど、誰かに音楽を歌う/届けるってことがどういうことなのかを考えて社会と向き合う/関わるってことを最初に考えられたのって『FRAGILE』(2020年10月リリース)からだったりするんだよね。『fantasia』(2017年4月リリース、3rd Album)ぐらいから聴き手のことを考えて創ってるって口では言ってたけど、結局どれだけ自分の話を聞いてもらえるかに注力していた気がする。だから、ちゃんと『FRAGILE』以降の延長線上に今回のEPはあるなと思う」

◾️これは何度も話してきたことのような気がするけど、“いつものこと”(2019年12月リリース『Maison Diary』収録)という楽曲は、やっぱり大きな転換期だったのかなと思う。今までになく自らの赤裸々な日常と感情を曝け出したあの楽曲は、大の想像を遥かに超え、聴き手にとって「自分ごと」として受け入れられたじゃないですか。

「そうだね、それまではそういうことはしなかったからね」

◾️自分が抱えている想いや感情は、何も自分だけのものではないんだなという実感を持てたと思うんだよね。だからこそ、自分のことを歌っていても、聴き手/社会が存在する歌に変貌していったのかなと思う。

「うん、もっと早くそうなりたかったとは思うけどね(笑)」

◾️(笑)。そんな変化を経て辿り着いた最新作は、バンドとしてではなく個人的な感情で楽曲を創ったと言っていたね。“カームダウン”の<他のどこにもない僕だけの世界だろ>っていうラインや、“ニューワールド・ガイダンス”の<全部捨て去って>という言葉がとても印象的で。聴き手にとって自己投影できる言葉ではあるのだけども、今一度、大が自分自身を取り戻そうとしているニュアンスを強く感じたんだよね。

「……自分の印を創るって感じだったのかもしれない。それぞれ楽曲のテーマが大前提としてある上で……その発想自体が自分のものとして曲を創っていたということかもしれないんだけど、何処か自分に言い聞かせたい部分があって、出てきた言葉かもしれない。……ぶっ壊れそうな感覚が最近凄くあったから。じゃあ、壊しちゃえ!っていうのはあったかもしれない。投げやりになっているってわけではないんだけど」

◾️頭の中が煩いって感じかな。

「そうね、それはある(笑)。昔よりだいぶ煩くなったと思う」

◾️それはなんでだろうね?

「うーん……独りで生きているわけではないって自覚したからかな」

◾️大に訪れた他者や社会と生きているって自覚は、眼に映るものや自分の中にある感情の情報量が何十倍にもなるってことで。外的要因がある故に、自分という輪郭の中に対してより深く入っていけてるのかなと。

「そうね、潜ると浮かんでくるって作業が曲作りの中に生まれたって感覚はあるかも。前まではずっと見渡している感じだったんだよな。バーっと広い図書館みたいな場所で、自分に必要なものを手に取っていくって感じで曲を創ってた。その時はメロディに言葉がハマらない!みたいな精神的なストレスがあって。でも、今回は自分の中を探っていく/潜っていくって感覚ーー精神的なストレスはないんだけど、潜って見つけて、潜って見つけて……スポーツみたいな感覚だった。ーーさっき言ってくれた自分を取り戻す感覚ってのは、バンドから自分を取り戻すってことだったのかもな。俺の魂って俺の中になくて、LAMP IN TERRENの中にあったの。それをまた自分の中に宿すっていうことはあったかもしれない」

◾️まさにそう思う。この言葉を聞いた人は、大がテレンを続けることに疲れちゃったのかな?と思ってしまう人もいるかもしれないけれども、そういうことではないよね。ひとりの人間として楽曲を創っているはずだけど、会社員が会社の方針に自然と従っているように、テレンとしての正しい音楽の姿みたいなものが、大の中に入り込み過ぎてしまっていたのかなと思ってて。大が大として創作をするというところに、立ち戻る音楽が生まれたのは必然なのかなって思う。

「うん、それはすげぇわかる。確かに」


区切りであると同時に続いていく感覚

◾️その上で訊きたかったのは『A Dream Of Dreams』というタイトルについてなんです。テレンとしてラストとなるワンマンライヴやEPには、何故このタイトルを付けたのかな?

「これは、俺の始まりに物凄く関わってくるというか。中1の時に、学校の行事の一環でお芝居をしたのね。真ちゃん(大屋真太郎/Gt)は確か体育で跳び箱とかをやってて(笑)。その他に、パソコンでCGを作るっていうコースと演劇のコースがあったんだよね。俺は面白そうだなって思って、演劇のコースを選んだんだよ。そこでやることになったお芝居が『夢から醒めた夢』っていう劇団四季がやっているお話で、英語のタイトルだと『A Dream Of Dreams』って何かで見たことがあったんだよね。ーー俺のステージの原体験ってそこだから。学校の体育館の上。当時は歌うことは好きではなかったけど、何かを表現するっていうことの原体験はそこで、テレンとしては最終的にリキッドルームっていう場所になる。俺の表現するってことへの憧れは、あの学校の体育館で始まったから……自分の区切りとなる言葉を使いたかったんだよね」

◾️自分の原体験と繋がったタイトルであるということは、やっぱり立ち戻りたいという気持ちと、新たなスタートへの想いがしっかり存在していたんだね。辿ってきた旅路に一度区切りを打つには、ジャストな言葉だったんだ。

「振り返ってみると、今まで俺はアルバムごとに試練をクリアしてきたって感覚があって。『silver lining』(2015年1月リリース、1st Album)と『LIFE PROBE』(2015年7月リリース、2nd Album)の頃は、基本的に憧れを源泉に曲を創ってきて。3rdの『fantasia』では音楽の音像感がもたらすものは何かーー日常の中にあるものからファンタジーを見つけて、音で表現するという試練。『The Naked Blues』(2018年12月リリース、4th Album)では松本大が松本大である意義ーー詩人として自分はどうなの?っていう課題があった。自分の空想の中で曲を創りながら世界を見て、『バンドってカッコいいよね』『世の中っていいよね』『歌うって素晴らしいかもね』とか思いながら曲を創っていた自分に、『本当にそうなの?お前逃げてるだけじゃね?』って問いかけがあったのが『The Naked Blues』だった」

◾️そこから次の『FRAGILE』で大きな変化があったと。

「そう。社会とどう向き合っていくのかーー『お前は結局人に音楽を届けているわけだから、孤独でい過ぎるのはよくないよ、社会と向き合わなきゃ駄目だよ』って課題を持ったのが『FRAGILE』だった。だから今回のEPは、俺の中でその全部の気持ちを持ちながら、感情だけで曲を創らないってことが課題で。どうしても俺は気持ちで曲を創ってしまうから、俺の曲って俺が歌って一番力を発揮する曲たちだったと思うんだよね。それはいいところも悪いところもあるんだけど、音楽である以上は他の人が口ずさんでも、凄い名曲になるものでありたいって思ったの。他の人にも聴くだけじゃなくて歌って欲しいって考えた時に、今の自分の曲の創り方じゃ駄目だって思って、音楽的に自分の気持ちの使い方を解釈した結果が今回のEPだった。此処から、ようやく俺は自分のことをミュージシャンって言えるんじゃないかって思ってて」

◾️職業として、ということだよね。

「そう。だから区切りをつけるんだったら、これまでの音楽をやってきた15年、もっと言えば演劇から数えると16年ーーその最初と最後が同じものだったら自分の中で気持ちがよかったんだよね。区切りであると同時に続いていく感覚があるから、このタイトルにした」

◾️うんうん。実は、俺は「Dream」という言葉自体にドキっとしたんだよね。言ってみれば、LAMP IN TERRENというものは夢みたいなものだったのかな?とも捉えられるじゃない。子供の空想ーーもっと悪い言い方をすれば遊びのようなもの。続いていく感覚以上に、夢を見ていられる最後の日だよ、ってタイトルに感じたんだよね。

「まぁ、それは往々にしてあるよ(笑)。表裏一体だからね。自分でも滅茶苦茶思ってたよ、夢の終わりだなって。……でもその先も続いていくのよ、バンドというもの自体は続けるという選択を取ったから。それでも、自分が小っちゃい頃から掲げていた夢とか理想ってものが終わるんだろうなっていう想いは凄くある。ただ……終わらせることを自分自身の手でできるとも思う。このタイミングに区切りとして杭を打つのは、俺としては凄く筋が通ってるのよ。リセットボタンを押したいわけじゃないし、俺は終わるとも別に思ってないんだけど、LAMP IN TERRENという枠から飛び出すっていうのは、今の自分だからこそ必要なことだと思う。だって、夢とか幻想とか理想っていうものでLAMP IN TERREN自体が創られたものだから。ただの一人間になることが、今俺にとって必要なことなんだと思うんだよ」


LAMP IN TERRENは記憶だった

◾️夢から醒めるきっかけは色々あったと思うけど、大喜が抜けるってことは間違いなくそのひとつではあったと思うんだ。やっぱりこのバンドは、4人で鳴らす音楽って感覚が大の中にはあるんだよね?

「うん。それこそ、大喜が脱退の話を言ってきて一気に眼が醒める感覚はあった。大喜が辞めるって言ってなかったら、俺は今でも夢を見てると思う。今まで考えてなかった、凄くリアルな話を介入してくるなって感じだった。ふと自分がやっていることを考えてみると、音楽を創るってことよりも、この夢を続けることーーメンバーとの関係性を続けていくことの方にプライオリティが高くなっている感覚があって。だから、他のやつがドラム叩いてもしょうがないなって思ったんだよね。曲は曲で別に生きているものだとは思うんだけど、LAMP IN TERRENっていう枠自体が物凄く強制力のあるものになっちゃってたっていう」

◾️大喜も同じようなことを言ってたんだよね。最終的に、大とふたりで話していた時に「もういいんじゃない?」って大に言われて、肩の荷が降りてスッとした感じがしたと。

「うんうん、言った。あいつは勝手に色々なものを背負っていたからね」

◾️その大喜の感覚は、何かから解かれるという感覚だったんだと思うんだ。だからこそ、テレンっていう夢を見続けようとしていたのは、大だけではなかったとは思うんだよね。

「実は大喜から脱退の話がある前に、ちょっとバンドやスタッフと揉めたことがあったのよ。ある場面で俺だけがいろんな意見を言っていて、メンバーが何も言わないでいたのね。バンドにとって凄く大事な話だったのに、お前ら本当にそれでいいのか?って俺はその時思って。そこで『お前らが本当にやりたいことってこれじゃないんじゃないの?』って問いかけを俺がメンバーにしたことから、この話って始まってるんだよね。必死だったのは俺だけだったのかな?って……期待してた自分がいて、ガッカリしたって言う感覚はあった。だから俺はシンプルにこのままではよくないって思ったし、大喜が脱退の話をしてきたのも凄く理解できた。正直、真ちゃんとか健仁(中原健仁/Ba)も同じことを言ってくるかなと思っていたけど、ふたりはバンドを続けたいって言ってきたから、そこは改めて考えようってなったんだよね。もちろんテレンを続けようって案も最初あった……でもね、LAMP IN TERRENっていう名前が持っている枠には凄く強制力があって、何処を向いてもワクワクできなくて光が見えないって感じがあったのね。で、結果としてテレンの活動は停めて、違う形でバンドをやっていくって決断を選んだ。だから『いいんじゃない?』って大喜に言ったのは、俺は『知ってたよ、だと思ったよ』って感覚だった。大喜の抱え方って凄い歪なのよ」

◾️うん、しかも大喜って実は繊細で思い悩むタイプだからね。

「あいつは、ずっと俺をライバル視してたと思う。昔はバンドの中心人物として活動していた大喜と、今バンドの中心にいる俺ーー大喜は凄い髪を伸ばしてみたり、髭を生やしてみたり、兎に角、俺には従わないっていうスタンスがずっとあった。ただ、俺はそれでいいと思ってたのね。でも何処かのタイミングから、そこに疲れたのかなぁ……わかんないけど、凄く距離を取るようになったの。だから俺も『いいんじゃない?』ってあいつに言ったと思うんだよね。解放したくなったというか。仮に俺がソロのアーティストとして3人を従えている状態だったら、こんな色々考えたりしないと思うのよ。たぶん俺が一番バンドに固執してて、居場所だと思ってた。だから曲作りもするし、予算がなければMVも自分で考えるし、ジャケットも描くし、グッズも作るーーやらなきゃいけないことは、全部やってきたのよ。ただ、そういうところも含めて凄く子供だったなって今は思う。誰かに何かを任せることができれば、もしかしたら違ったのかなとも思うよ。今、結局どっちが正しかったとは言えないけど」

◾️LAMP IN TERRENはバンド名に「この世の微かな光」っていう意味を宿していて。そして、バンド名に凄く忠実なバンドだったと思うの。

「……そうだね」

◾️ここまでバンド名に忠実にやってきたバンドって中々ないと思うんだよ。音楽性と共に歌詞のコアみたいなものも変化してしまうことは往々にしてある話で。でも、テレンは音楽性が変わっても、バンド名が持つ意味合いの傘の下で歌を歌い続けたと思うんだ。でも、聴き手が携えるランタンのような音楽であり続けるためには、そもそも自分たちが携えている光がなくなっちゃたら、その音楽は創れないじゃない。

「……うん、そうだね」

◾️その携えてた光の一番根幹にあったのが、大にとってはメンバーと一緒に過ごしてきたこと時間そのものだったのかなって思うんだよね。

「そうだね、記憶だったね」

◾️ひとりのメンバーが共に過ごしてきたステージから降りることで、その記憶は一回途切れる。だからLAMP IN TERRENという名前での活動を停止します、という選択はとても筋の通った話だと思います。

「うん、俺も自分なりの筋の通し方をしたと思ってる」


俺は未来に必要な物しか選ばない

◾️だからこそ、テレンという夢の終わらせ方はとても重要になるよね。まだまだ続いていく大たちの音楽人生にとって「終わる」という言い方は正しくないかもしれないけど、それでもやっぱり「終わる」日がリキッドルームでのライヴになると思うんだよ。

「うん。それでも、俺は未来について考えるっていうテーマしか持ってない。だから過去には縛られない。普通ラストライヴって、過去から現在までの楽曲を満遍なくやるものだと思うんだけど、俺は未来に必要なものしか選ばない。俺の一存のように聞こえるかもしれないけど、ここは全員が共通認識としてそう。バンドが終わるから、大事にしてきた15年間を攫ってみんなの思い出と共に過ごすっていうライヴが、いわゆるバンドシーンにおける真っ当さだと思うのね。俺はそんな綺麗な終わり方をするつもりはないんだよ。『この曲が聴きたい』みたいな感情を持って、ライヴに来ることは価値があることっていうことは凄く理解もできるんだよね。でも俺はそれを凌駕するくらい、未来のことを考えるっていうセットリストにしたいし、そういう歌を歌いたい。そういう想いがないなら、俺はLAMP IN TERRENとしての活動を終了しますってわざわざ言う必要さえないと思っているから。だから、そんなライヴになるんじゃないかなって思ってる」

◾️過去を攫うという話で言えば、ベストアルバム『Romantic Egoist』を全曲リテイクで制作したよね。どうしたって今のタイミングでベストアルバムという話を聞くと、過去を精算するためのものとして捉えられかねないと思うんです。ただ、この制作が決まったのは大喜の脱退も活動停止の話も出る前だったじゃないですか。

「本当にそんな予定はまったくなかったし、単純に楽しい企画をやろうっていう意識だったからね。結果的に、自分たちにとっても整理をする時間になってしまったというか。正直、大喜が辞めるってなってから、なんでこのアルバムを制作するんだろうって思ったしね。そういうことをしたかったんじゃない、だからこういうタイミングで辞めるなんて言うなよ!とも思ったし(笑)。……でも創ってよかったと思うね。お別れ作業とかじゃなくて、これはタイムカプセルなのよ。だから創るべきものだったと思う、個人的にはね」

◾️LAMP IN TERRENという名前も音楽も消え失せるわけではないし、大はもちろん、健仁も真ちゃんも大喜も音楽を続けていくわけだから、お別れのためのものとは違うよね。それに加えて、今リテイクという形で過去の曲と向き合っていなかったら、生まれ変わったバンドで過去の曲を演奏する可能性がゼロになってしまったんじゃないかとも思った。その過程を踏んだからこそ、未来でも鳴らしたいものが見つかったかもしれない。

「うんうん、確かに。それはそうだね」

◾️だからこそ、タイミング的にはたまたまだったかもしれないけど、今とても大切なものになったんじゃないかと思う。そんな未来への道標にもなるベストアルバムって、あまり例を見ないんじゃないかな。

「ーーうん、やってよかったなと思うよ」


ロックバンドって生き様だと思ってる

◾️そこで、改めて『A Dream Of Dreams』ーー『夢から醒めた夢』という言葉とワンマンライヴの話に戻らせてください。LAMP IN TERRENというものは、お客さんとも共に創り上げた夢だったと思うんです。“ニューワールド・ガイダンス”という最新曲にも<夢が醒めた後の世界>という歌詞があるけども、リスナーと一緒に夢から醒めるための時間になるのかな。

「28日のライヴって、LAMP IN TERRENってものを背負ってはいるけど、ステージに立っているのはもうLAMP IN TERRENではない気がする。メンバー全員そうなんじゃないかな、と思うよ。テレンとしてではなく個人の旅立ちーーだからこそ、さっき過去に拘らないで未来のことを考えたいって言ったんだよね。少なくとも俺はLAMP IN TERRENの松本大ではなくて、ただの松本大としてステージに立つと思う」

◾️夢見心地の時間から抜け出した4人が、夢の中で創った楽曲をステージで鳴らす、最初で最後の時間になるかもしれないね。だからこそ、これからも続いていくストーリーの一部であるという側面がありながらも、ひとつの物語の第1章が完結するような日になればいいな、と思ってます。

「過去を雑に考えてるわけではないんだよね。まだセットリストも決めてなくて。ただ、LAMP IN TERRENの歴史みたいなものを完全に無視したライヴをすれば、当然反論も出るとは思ってるしーーそこに勝てるかどうかかな。一人ひとりの中に、俺らの好きなところ/嫌いなところってあると思うんだよね。この曲好きだったのにやってくれないのか!とかさ。自分の筋を通すために、俺はそういう想いを凌駕しなきゃいけないと思う。『この世の微かな光』っていうバンドをずっと全うしてきて、そこから新しい世界に向かうと同時にバンドを終了させる上で、優しく受け止めてもらう方法も幾つか考えつくのよ。でも、納得してもらえるかな?なんて安パイな方法で、自分の通して来た筋を曲げたくないっていう想いはあるのね。だから、その想いに気づいて欲しいなって思う。ーーでもね、今回の対戦相手って日本の歴史みたいなところがあると思うんだよ(笑)」

◾️ははは(笑)。確かにそうかもね。

「日本のチャートに存在している音楽も世界から見ると異質で。そのチャートにいる音楽は耳触りがよくてキャッチーなもので、ちゃんとお客さんに対して気が遣えるものなのよ。だけど、俺は自分の筋を通していたくて、いつも自分の行動に理由が見つかるまで行動してこなかった。だから、傷つける形になったこともあったかもしれない。だから、社会に向き合えるようになった今の自分の対戦相手は日本の文化なんだよね」

◾️今こそ立ち向かえるって言い方もできるよね。ただ、シンプルに考えるとほとんどのお客さんはLAMP IN TERRENという存在の終焉を美しい思い出にするために、ライヴ会場に来ると思う。そのお客さんの感情を凌駕して、この先の4人の未来にワクワクするという感情を抱かせることができるかーーそれができれば、きっと大にとっても、メンバーにとってもいいライヴだったと言える日になるんだろうね。

「そうだね、そう思う。だから、感動させる気ってないのよ。特に最近の日本は空気の読み合いで成り立っていると思うことが多いのね。自分の感情を殺して、息を潜めて生活している人もいる。だからこそ、中途半端な言葉を俺みたいな立場の人間は使っちゃいけないと思う。なんとなく『こう言っておけばいいだろう』みたいなものづくりはしたくない。ロックバンドって、俺は生き様だと思ってるから。真剣に向き合った上で、自分の生活から出てくるようなものを曲にするーーそういう生き様を見せることで、ようやく誰かの生活に寄り添うものが創れるんじゃないかと思ってて。今まで15年音楽をやってきて、どの瞬間も滅茶苦茶死ぬ気でやってたと思うのよ。一生懸命憧れたし、一生懸命自分をぶち壊してきた。対応して、鍛えてきた。だから、バンドマンとしての意地は絶対通す」

◾️まさにベストアルバムのタイトルの『Romantic Egoist』だね(笑)。

「そうだね、そうかもしれない(笑)。めっちゃ自信はあるんだけど、大いなる不安もある……でも、全員を送り出したいな、俺は」

◾️みんなで一緒に夢から醒めることができるかどうかは、4人に懸っているね。

「いやその役目は俺だな。誰にも譲れないのよ。で、他のメンバーも絶対そう。お客さんもそれぞれ誰にも渡せない正しさで向かってくると思う。ただ、ここで話したのは松本大の考えであり言葉だから、今日話した話は全部俺が背負っていくよ」

◾️会場にいる全員が未来に対してワクワクしたら、きっと正解だよ。いい夜を期待しています。

「確かに! そうだね、頑張るよ」


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ワンマンライブ『A Dream Of Dreams』
12月28日(火)東京・LIQUIDROOM ebisu
19:00START予定

配信ライブチケットはコチラ
※12月31日(火)23:59までアーカイヴ視聴可


2020.05.27

『Enchanté』RELEASE DAY SPECIAL 公開インタビュー / OTHER

5/22 LAMP IN TERREN
『Enchanté』RELEASE DAY SPECIAL
公開インタビュー


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コロナ禍の中、松本からいつものように歌が届いた。新しい音、新しい言葉がそこには鳴っていて、まるで別の星から降り注いだかのように、明らかな変貌の光をLAMP IN TERRENは放っていた。だからこそ、このタイミングでオンラインでの生配信インタヴューを敢行した。このテキストはそのインタヴューを、少し姿を変えてお届けするものである。ありのままの自分でいることの意義、「初めまして」の世界、オンラインで繋がる不可思議ーー「国民全員強制孤独状態」ともいえる世界の中で、常に孤独と共に生き抜いてきた松本大は、新曲"Enchanté"を通して、今僕らに必要な感覚と歌を贈ってくれた。諦観ではなく、あくまで未来を自らで描くために生きる意志を語ってくれた松本の声を聴いて欲しい。あなたの世界の見方が、ほんの少し明るくなるはずだ。なおインタヴューが進むにつれ、加速度的にお互いに口調が砕けてくるが、敢えてそのまま記載している。オンラインでありながらも限りなく飾らない心のやりとりを感じて欲しい。


俺はこの世界にいるっていうことを、誰よりも発信することが正しい気がしている


◾️オンラインでのインタヴューかつ生配信という特殊な形ですが、よろしく。まず、最初に少し振り返らせてください。昨年末からは年明けにかけて、ロックバンドとしての矜持を示すかのような荒々しさを見せたツアー『Blood』(2019年11月〜12月開催)、そしてワンマンライヴ『Bloom』(2020年1月13日マイナビBLITZ赤坂)の完遂、そして過去とは全く違うニュアンスで、自らのことを赤裸々に綴った"いつものこと"を含む『Maison Diary』のリリースなど、LAMP IN TERRENにとっては、かなりの変化が生まれた時間だったと思っていて。大(松本大/Vo.&Gt.&Pf.)にとってはどんな時間でしたか?


松本大「そうだな......今までは、過去を否定しながらずっとやってきた印象が自分にあって。そこを抜け出したのが、4th Album『The Naked Blues』というアルバムだったんです(2018年12月5日リリース)。否定し続けながらも、その当時までに培った経験を持って、灰の中から蘇る感覚で創った感覚で。でも去年の『Blood』は、やっとそういう過去の否定から抜け出して、ありのままで進んでいけるツアーだった。それが自分の中では驚きで、進んでいくのが楽しかった」


◾️自分を出すことを怖がらなくなったという点が一番大きいと思っていて。今までのテレンの歌は、あくまで大/テレンの歌だったんだよね。あまりにも強い世界観を一人称で歌うが故に、聴き手にとっては、自分のこととして楽曲を聴くことが中々難しかった。でも『Blood』を完走した先で発表した"いつものこと"という曲は、まるで自分の話のようにスッと聴こえる曲で。それは、自分自身を見せ続けたことで生まれたのかな。


「ーーどちらかと言えば、過去の自分はずっと夢見がちで。自分が「こうなりたい!」という願いや祈りの中を生きていたんですよね。それは、自分の生活の中にある小さなもの......本当に普通の、小っちゃな部屋で生まれた俺の感情なんて、誰にも共感してもらえないと思って生きてきたからで。それでも、少しずつ自分の内面をそのまま出すということをしてみたら、その方がむしろ共感をしてもらえて、受けて止めてもらえて、好きだと言ってもらえたーーそれが、嬉しかった。だから、"いつものこと"のような自分の内面を素直に出せる歌を創れるようになったんだと思う。その感覚は、今まで自分が創り上げてきた夢から覚める/壊れていくという感覚があったけど、それでも俺は自分が自分であるということを証明した上で、夢や希望的観測を語る方が自分の中で辻褄が合ったんです。年齢のせいもあるのかもしれないけど、ちゃんとリアルを提示した上でじゃないと、フィクションや夢物語は語れなくなった。今になって思うと、あり触れた小さなことを歌にする勇気が必要だったんだな、って思う。それをメンバー4人みんなで自覚できたから、ようやく夢の話でも自信を持って話せるようになったし、何より、今の自分たち自身のスタイルに確信があるんじゃないかと思いますね」 


◾️"ほむらの果て"のように、俺は俺自身以外では生きられないと叫べる人間って、本当に極少数の声が大きな人にしかできないことだと思うんです。一方で"いつものこと"のように「情けないんだけど、これも自分なんだよね」みたいにポロッと本音を零している姿の方が人間らしく届く。いい意味で「松本大って人もこんなもんなんだな」って聴き手には伝わったと思うんです。その瞬間に、今まで開いていなかった聴き手の心の扉が開いたと思う。


「うん、そうなんだと思う」


◾️リリースタイミングは昨年末、つまり、現在のコロナ禍に対するリアクションではなかったにも関わらず、"いつものこと"という楽曲はサウンドとしては暖かな音像だけども、実は歌詞だけを読んでみると、とても寂しい日常の孤独を孕んだもので。今現在って、一種の全員強制孤独状態だと思うんだよね。


「(笑)。ーーそれで言うと、俺はずっとそんなもん。寂しさがずっと胸にあるし、そういう生き方をしてきてしまったから。きっと、ステージに立つ人間としての意識が大きく反映されている気がする。寂しさを抱えているのは自分だけじゃないって感じることができる一方で、自分はその感覚を発信する立場に有難いことにいて。だから、ただ頑張れって応援するよりも、俺はこの世界にいるっていうことを、誰よりも発信することが自分の心情としては正しい気がしていて。ロックスターにもなり切れない自分が、小さなことかもしれないけど自分の生活を歌うことに意味があるかなって思ってる」


◾️今誰しもが孤独を感じる中で、孤独を生きてきた大の歌はより今響く存在になっていると思う。孤独な日々に対して、悲観を持たないためにテレンの歌がより届けばいいなと思います。


「俺もそう願っています」



未来とも初めましてだけど、未来の貴方とも初めましてだなって


◾️そうやって自分自身を素直に表現できるようになった日々を経て、完成した楽曲が"Enchanté"だね。まずは、リリースおめでとうございます。


「ありがとうございます!まだ配信されて24時間経ってないね」


◾️新しくて懐かしい感覚を抱きながら、最初に音を聴きました。最近のテレンが追求していたリアルを晒すイメージというよりは、空想の世界をサウンドで描きつつも、そこにとても胸に落ちる言葉が載っているーーこのバランスが新しいな、という感覚があったんです。


「ちょっと初期の頃の自分の感覚が融合してる感覚があるんですよ。それは、さっきも話していた自分が否定してきた過去。それはきっと、自分のリアルを曝け出せるようになってきたからだと思っていて。元々、俺は音/音像で景色/絵を描くことが大好きで、そこに似合う言葉を選んで曲を創ってきた感覚があって。つまり、音が先で言葉がそのあと。だけど、歌として言葉があとになっているのはよくない、自分の中のリアルを出したいと言う気持ちもあるから、そのバランスにおいてスクラップ&ビルドを繰り返してたんだよね。ただ、いざ裸の言葉を出せるようになってみても、やっぱり俺は言葉でも絵を描きたいと思った。自分のリアルを混ぜつつ、自分の言葉の中で景色を見せたい。そのどちらもある感覚で"Enchanté"は創れたから、自分の中で1つきっかけになった曲だと思う。LAMP IN TERRENの楽曲全体として絵を描けたって思っていて、初期の頃に、自分が願っていた楽曲の姿を知識と技術で形作れるようになったな、と思う」


◾️昔、「"緑閃光"ってどうやってできたの?」って訊いたことがあったの覚えてる? その時、大は「いやできちゃったんだよ」って言ってたよね(笑)。


「うん、わかんねぇ!って(笑)」


◾️そうそう(笑)。その時とは明らかに違うってことだよね。


「そうそう。わかんないじゃなくて、ちゃんと理由を持って説明ができる。だから今の自分は、願いや夢を描いていた過去をもう否定していなくて。今まで歩んできた松本大という一人の人間として、自分にしか書けない曲になったなって思えてる。そこが気に入ってる(笑)」


◾️昔から大はジャケットやグッズの絵を描いたり、MVの監督を自らやったり、音楽以外の表現もチャレンジしてきていて。今回の"Enchanté"のYouTubeオフィシャルオーディオで使われている写真も、最近大が始めたカメラで撮ったものと聞いてます。


「ずっと、カメラはやってみたい気持ちはあったんだよね。ただ、如何せん自分が欲しかったフィルムカメラって手が届きづらくて。でも始めてみてから、自分の表現の手法を増やすきっかけになったなって思う」


◾️映像とも音とも言葉とも違う、静止画の写真を撮り始めたことで、自分の中で感覚に影響が出ているのかな。


「うん。これは自分の心理状態ともリンクしているとは思うんだけど、小さなことに目が向くようになった。だからこそ、カメラを撮るということを自意識の外で自然と選んだんだとは思う。日常の些細なことを切り取るって作業が、フィルムカメラには必要で。ただ適当に撮っていても、いい写真にはならないんだよね。自分の中でこういう写真、こういう景色に対してはこんなアプローチで撮りたいっていう発想で写真は撮っていくものだと思っているから、それは歌にも通じるものがあると思う。......一瞬を掴むっていうことを、凄く意識してるんだと思う。写真と音楽の間で反復しているイメージがありますね」


◾️写真っていうのは、その一枚の中に物語があると思うんです。大の言葉を借りれば、「小さなもの」がどのように配置されていて、どんな風に写っているかーーその世界や感覚は大きな風景を音で、小さな自分ごとを歌詞として描く、今の大の音楽のモードに相当リンクしているよね。


「うん、本当にそういうことだと思う」


◾️今話してくれたように、大の中で今新感覚で曲を書けている、と。そこに対して、"Enchanté"=「初めまして」というタイトルをつけたくなったということなのかな。


「タイトルに関しては本当に感覚だった(笑)。仮タイトルには"Spark"と"空に落ちる日"っていう2つがあったんだけど、どっちもしっくりこなくて。ーーこれは本当にカメラと同じ感覚で、ピントのボケと一緒なんだよね。自分の中での感覚で、"Enchanté"というタイトルの響きと「初めまして」という言葉の意味が、いい具合にボケてて、ちょうど良い具合にピントが合っていて伝わるものだった。悪い捉え方をすれば、響きで誤魔化しているって思われてしまうのかもしれないけど、俺としては美しいものを作りたいって意識がずっとある中で、そのバランスが一番美しいと思ったんだよね」


◾️この曲を聴いていて、「初めまして」ってこと自体を改めて考えさせられて。当然、「初対面」という意味の「初めまして」もあるけど、今感じているのは常に人は生まれ変わり続けていて、逢う度に「初めまして」を繰り返している、ということなんです。例えば、大が新しい楽曲を僕に送ってきてくれる度に、僕は生まれ変わった大と話しているように感じていて、「初めまして」の気持ちを凄く持つんですね。この楽曲は、その感覚を強く呼び起こしてきました。


「その意識は、俺もずっと強く自分の中にあるのね。目の前にいる人は以前逢った時から、いろんなことがあって、別人が目の前にいるって感覚。昔好きだった人に、逢う度に距離感を忘れるって言われたの。あ、確かに!って思ったんだけど、わかる?(笑)」


◾️うん(笑)。


「いや本当に、確かにね!って思ったんだよね。俺は、今までの自分の中の記憶で補正して貴方に逢っているけど、遭わない間にその人が知らない人になっていてもおかしくないなって思うの。だから今日、黒ちゃんとも顔を見ながらでは久しぶりに話しているけど、お互い逢ってない間に何があって、どんな変化があったかなんてわかんないよね。だから、未来とも初めましてだけど、未来の貴方とも初めましてだなって思う。その初めましてに対してのリスペクトや愛は忘れたくないなって気持ちがあるーーだから、自分の記憶の中で補正されていく大切な人はいるけど、その像に固執したくない。いつも、真っ新な気持ちで誰とでも逢いたい、と思う。......最近おじいちゃんみたいになってきて、同じ話をするようになったんだけど(笑)。


◾️ははは(笑)。


「多分、自分の考えていることを反芻しているってことでもあるんだけど、「それ、前も聞いたよ!」って言われることがある。そういう変化が自分の中である!」


◾️きっと自分より1ミリでも外で起きている出来事に対して、リスペクトを持っているからだよね。すべてに対して新鮮な気持ちで、初めましてを何度も繰り返しているから、自分にとって大切な話で何度も自己紹介をするんだろうね。


「そう、知って欲しいんだと思う。今の自分はこんな感じですってこと。自分の中にある大切な信念みたいなものでさえ、過ごしていく日常の中で変わっていくーー風化して、成長して、劣化していく。だから、毎回ちゃんと自分のことを話したいって思ってるんだと思う」


◾️その気持ちは、"Enchanté"に本当に色濃く出ていると思う。歌詞の中に<世界にときめいていたいよ>という一節があるよね。これは昔の松本大からは絶対に出てこない言葉ですよ。恥ずかしくて書けなかったでしょう?


「......はい、そうですね...(苦笑)」


◾️(笑)。それくらい、今大は外の世界/人に対して恋心にも似たリスペクトを持っているということだと思うんです。この歌は新たな世界に対して心の赴くまま行こう!という応援歌としても、はたまた、熱の高いラヴソングとも取れるよね。きっとそのどちらのニュアンスも、大の心のモード感なんだろうね。


「うん、そうだね。でも、正直<空に落ちたい>という歌詞は伝わらないかなって思ってて。ーーこういう場所で歌詞のことを話すのは、正直どうなんだろう?って気持ちもありつつなんだけど......想像して欲しい領域でもあるから」


◾️じゃあ少し勉強っぽく推測をしてみようか(笑)。例えば、<空>という単語を持つ楽曲で、きっとテレンの歴史で一番強い印象を持っているのは"ボイド"という楽曲だと思います。あの歌では、空は虚空ーー虚しさ、喪失の象徴として描かれているよね。


「俺の中ので空に対する認識は空っぽ、何もないっていう認識で、ボイドの時と変わってないんだよね。でも逆に言うと、何もない場所なのであれば、自分で描いていけるとも思うのよ。極端な話、自分が見たい世界を反映させることができるかもしれない。でも逆に言えば、未来には何もないと思ってる、空と一緒で。空っぽで、何もなくて、色もなくて、真っ白なところだと思うのね。だからね、未来には向かいたくて向かってるんじゃないと思う。ーー極端に言うと、死にたくないじゃん。けど、未来に行ったらいつか死ななきゃいけない。でも行かなくちゃいけないーーそう、背中を押されてしまうんだよ。その感じが、飛んでいるようで落ちているーー進まざるを得ない未来に対して前向きでいるために、空に落ちるという言葉を使っているーー伝わるかな。


◾️「前向きに何もない未来へ落ちる」と言うことだよね。さっきの話で言うと、常に「初めまして」で世界が進んでいくのであれば、そのことに無自覚で何も知らずに生きていくと、何も自分では選択ができずに未来に落ちていくと思う。ただ、大の言う「無の未来」で選択を迫られた時に、知らないという自らを自覚して知識や想いを積み重ねていれば、自ら選択ができる可能性が出てくる。だから、リスペクトを持って初めましてを繰り返すことができれば、決してネガティヴではない形で空に対して落ちていく、と言うことができるのかな、と個人的には感じてます。


「うんうん。端的なイメージだとスカイダイビングに近いかな。凄く気持ちがいいし、自然を感じられるけど、その実、落ちている。けど、そのジャンプは希望に溢れたものだったりもする」


このバンドの持っている世界は、もう俺一人じゃ成立できない


◾️その映像は凄くリアルに音に出ていると思う。空感ーー空間系のエフェクトと隙間のある音の組み立てが浮遊感のあるサウンドスケープになって、その効果を引き出しているよね。


「<今空に飛び込んでいく僕ら>の空に飛び込む感じは凄いよね。擬似体験ができて、本当に気持ちがいいなと思ってる。サウンドだけでも自分の表現したいことができているんだけど、それの功績は実は真ちゃん(大屋真太郎/Gt.)が大きくて。Aメロから1サビにいくときに、いきなり転調してコードとしては落ちるのよ。俺はこの表現手法は知らなくて、真ちゃんのおかげでサビで「落ちる」イメージが凄く出せたことで、より自分のイメージに近づいて。自分の中でも、この曲は過去と今の自分の感覚が融合した感覚はあったんだけど、バンドとしても、バンドでアレンジした"!って言い切れる曲だと思う。今ね、とにかくバンドが成長している、そこは推したい(笑)」


◾️"いつものこと "も、確か真ちゃんがコード付け直していたよね?


「そうそう!」


◾️個人的には、ラスサビの健仁(中原健仁/Ba,)と大喜(川口大喜/Dr.)の二人のダイナミズムの付け方は最高だったよ。


「健仁もそうだし、大喜も何回もビートを動画で送りつけてきて。それを繰り返していたよ」


◾️大が創るデモって、基本的にほとんどの音が入っている完成系のものじゃないですか。以前は割とデモで完成形が見えてたけど、最近はメンバーとアレンジを詰めた後、楽曲が相当姿を変える印象は確かにあります。


「それはあるね。ちゃんとメンバーで創っている感じがあって、逆に俺は凄く自由になった。各々の役割分担ができて、俺は俺の役割に集中できるようになった」


◾️それは、0から1を作る役割?


「そこもそうだし、全体の音像感とか歌詞の世界観とかも、かな。今は、メンバーからのリアクションがしっかりあるから、メンバーのお陰で自分だけじゃ見えなかったものがしっかり見えてくる。4人の中心点を目指せばいいから、自分一人よりも全然迷わないんだよね。そうやって曲の雰囲気ができてくると、自然と言葉も出てくるし」


◾️じゃあその成長速度だと、大はある意味、毎回知らないメンバーと「初めまして」をして一緒に曲を創っている感じだね。


「お前、そんなことできるようになったの!ってよくあるからね(笑)。ーーLAMP IN TERRENとしての音楽ができているなって思う。このバンドの持っている世界は、もう俺一人じゃ成立できない」


◾️この1曲を通して、大の中での表現のハマり所、そしてバンド自体の姿も見えてきたっていうのは、本当に大きいことだね。


「本当にそう。"いつものこと"の時から片鱗はあったけど、確信した。これはバンドっていう生命体だって思う。一体、この感覚でバンドをやれている人間ってどれだけいるのだろう?ーー自分で言うも変だけど、自分でやっていることが本当に特別だと思う。日常で言えば全然大したことはない暮らしなんだよ。自分がやっていることが特別だっていう感情は、人間誰しもが感じていいものだと思うんだけど、俺もまた俺で、今自分がやっていることが特別だって思えてる。俺らにはアレンジャーもプロデューサーもいないから、4人だけですべて完結していて。凄く気持ちいいよ、自分たちだけでやるって(笑)。もちろん、お互いに足りない部分を埋めるようにぶつかることはあるけど」


◾️去年のツアー『Blood』の初日(2019年11月1日下北沢CLUB251)に、予定にはないダブルアンコールとして未発表だった"いつものこと"を大が弾き語りで披露したじゃないですか。「新曲できたんで聴いてください」って(笑)。


「今日はやらなくていいんじゃない?ってなってたんだけど、俺がやりたくなっちゃったんだよね。だから本当に独りで、ステージに出て演奏を始めたんだけどーー」


◾️2コーラス目から、メンバーが徐々にステージに登場して大に合わせて演奏をし始めたんだよね。まるで、予定されていた演出だったかのように見えたかもしれないけど、あれは本当に予定していなかったこと。僕は、あの日に観た大を含めたメンバーの表情が凄く残っていて。互いへの愛情を心から感じた瞬間だった。あの辺りから、バンドという生命体としての力がこれまで以上に凄く宿っていたんだなって思います。


「......うん」


直接会っていたら俺には俺の姿は見えない


◾️少し話はそれたけど、大としてもバンドとしても生まれ変わった状態で、文字通り「初めまして」をするには納得のいくシングルができたんだと思います。そんなシングルの配信が決まっていてたのに関わらず、あなたは本当に急に新曲のデモを発表しました(笑)。


「"宇宙船六畳間号"、ね。俺が待ち切れなかったんだろうね(笑)」


◾️この曲はタイミングも含めて考えると、本当にふと書いた曲だったのかな?


「ーーもしかしたら、素直に話し過ぎると嫌われてしまうかもしれないんだけど......周りがね、この期間だからこそ色々なやり方でリスナーと一緒に音楽を創ったり、共有していこうとしていたんだけど、俺自身はそこに違和感があって。それで、こんな時だからできる曲があるのかもしれないなと思って、何も考えずに曲を創ってみようと思ったのね。それででき上がったものに対して「あ、これは荒削りのまま1回聴いてもらった方がいいかもしれない」と思った。歌詞を書いていく中で、自分の部屋を宇宙船のように感じていたっていう想いがまず最初にあって。今も正にそうだけど、こうやってパソコンを通して、外にも出られずにインターネットの窓から世界を見ている感覚ーーこれは誰もがそうだな、みんな同じだなって思った時に、あくまで自分独りで創ったものを聴いてもらいたいと思ったんだよね」


◾️大が思ってた通り、この曲はみんな同じ気持ちで聴いたと思う。みんなが部屋で、パソコンやスマホーー歌詞にある<小さく光る窓>を通して。そして、その繋がりだけが今は僕らの世界なわけだよね。そもそも、こうやってインタヴューをガッチリとオンラインでやる日が来るなんて思いもしなかった。ただ、今世界に感じている感覚っていうのは、この後訪れる新しい日常において、悪い意味ではなく、必ず引き摺るものだと思うんだよね。オンラインでしか人と繋がることができなかった時代/時期がありましたっていうことは、必ず残ってしまうことで。だからこそ、新しい日常が訪れてからまた大が新しい歌を歌っていくために、今この瞬間に抱いた感覚をそのまま歌にできたのは、とても大きいことだと思う。


「ーー俺はあんまり意識し過ぎない方がいいのかもしれないと思う。自分の日記をそのままアートに膨らましていく方が、自分の話ができる。こんな景色を創ろう、こんな夢を見よう、こういう希望の中に居ようーーそうやって考えるよりも、「今日はこんなことがあった」ってまずは書き留めてから、自分と会話しながら創るのがいいと思っていて。敢えて強い言葉で言うなら、世の中に対して歌うことには興味がなくて、あくまで、自然と世の中から影響を受けた自分が日記を書くだけ......そんな感覚で創っているかな。ーー俺がこじんまりとした人間だから、心の中にあることを歌ったら共感してもらえるのかな?って最近は思ってきた。きっとね、みんな普通なのよ。どんなスターだって、悪口言われたら傷がつくし、みんな小さな生活の中にいる。でも俺は、誰よりもスターのような存在でいることを放棄しているから、より小さなことを歌にできることが持ち味なんじゃないかって最近は思ってて。俺にしかできないことってなんだろうな?って考えていたけど、自分の小さいことを見つめて表現していくことだなって今は思いますね。


◾️今のバランス感覚で、大とメンバーみんなが創る歌を沢山聴きたいな、と思います。


「まぁ、明日どう思っているか、変わっているか、全然わからないけど......でも感覚的に今はこれが性に合っているんだなと思う。ーー次のアルバムはそうなっていくと思う」


◾️アルバムの話なんてしてもいいの?(苦笑)。


「まぁね、アルバムは出したいと言ったからね」


◾️じゃあアルバムの話が出たので、少し先の話をしますが、10月から始まるツアーを先日発表したよね。今、ツアーを発表するっていうことは、正直チャレンジングなことだと思うのね。


「うん、困惑している人もいるとは思う」


◾️この発表に関しては、メンバーとしての意思が強かったの?


「そうだよ。だって、目標がないのは辛い。できるかどうかはまだわからないよ? これからの世の中の動き、一人ひとりの努力......いろんなことが関わってくる。だけど何も先にないのは、生き甲斐がないし、ワクワクしない。目標を設定するのって凄く大切だなって思うんだよ。だからまだやれるかはわからないけど、何か一緒に頑張っていこうぜっていう目標を設定したかった」


◾️メンバー自身にとっても、聴いてくれる人にとっても糧になるということだよね。


「うん。第一ね、オンラインはこれから先の世の中でも普通にはなっていくと思うけど、やっぱりこれって不健全よ。直接逢わないのは不健全」


◾️どういうところで、大はその不健全さを特に感じてる?


「会話のテンション感もそうだし、タイミングだけでも感じてる。まずさ、そもそも心なんてものは見えないのよ。でもそれを自分の身振り手振りも含めて心の一つとするなら、それが見えない状態で会話しているのは不健全だなって思う。ーーしかも、このパソコンの画面には俺自身も写っているからね。自分で自分に話しかけている状態でもある。


◾️ーー確かに、それは本当にそうだね。


「そうでしょ? だって直接会っていたら俺には俺の姿は見えないんだから。俺は自分の身振り手振りを最大限使って会話をするけど、俺には俺のことが見えない。そうなればなるほど、心は裸の状態になっていくと思うんだよね。でも、こうやって自分の姿が見えていると、見栄を張っちゃう部分が正直ある」


◾️自分の存在って、そもそも他者にしか認識できないものだから、自分の姿が見えてしまうと恥ずかしいこともできないよね。そもそも大は、自分と他者/世界との関係性の中で歌を紡いできたと思うから、余計その感覚があるのかもしれないね。


「そう。ーーだから、ツアーの話に戻ると、健全な状態の目標は欲しかったし、共有したかったっていうのが一番大きい」


◾️うんうん......アルバムは期待してていいですか?


「鋭意制作中ですよ」


◾️俺はとにかくね、ツアーにちゃんとアルバムが間に合うかどうかを心配しているよ。これ冗談じゃないからな。


「......痛え(苦笑)。うん、締め切り守らないで有名だからな(笑)」


◾️いや本当に笑い事じゃない。


「いや本当にそうだね、頑張ります(笑)」


◾️待ってます。ツアーができる世界が訪れていれば、いろんな意味で世界も生まれ変わってると思う。バンドとしても完全に新しい世界で、皆さんと「初めまして」を果たせたらいいね。


「うん、本当に頑張ります。黒ちゃん、今日はありがとう。皆様"Enchanté"をよろしく!!」



interview&text 黒澤圭介


『Enchanté』2020.5.22 Digital Release

2016.09.28

【GCTファイナル交換日記18 】9月28日(水)大屋真太郎 / OTHER

日記0928.JPG
GREEN CARAVAN TOUR 2016
恵比寿LIQUIDROOMまであと
17日。


本日は9月28日。ワタクシ大屋真太郎が日記を担当させていただきまする。2日経った今でも、健仁が壊れかけのロボットみたいな動きをしていたことが面白かったので、今も思い出し笑わせてもらってるよ。あと健仁、ビアガーデンしたのは5.6年も前じゃないよ。3.4年前くらい前だよ。しっかり。
2013年の2月15日だよ。しっかりしてよ、もう。
この写真だね→(画像参照)
キンキンに冷えたジョッキ持って公園まで行ってプレミアムなモルツを飲んだよね。でも普通にふるえながら飲んでたよ。
さむいよ。あ、そういえばオレ悩みがあってさ。
寝るときも起きるときもふろのときもあたらしいギターのこと考えちゃうんだけど、これってもしかして
ねぇ、大どう思う?



【LAMP IN TERREN ワンマンライブ2016】
「GREEN CARAVAN TOUR」FINAL

10/15(土)恵比寿LOQUIDROOM
OPEN 17:00 / START 18:00
 ■イープラス
 ■チケットぴあ
 ■ローソンチケット


10/23(日)長崎DRUM Be-7
OPEN 16:30 / START 17:00
 ■イープラス
 ■チケットぴあ
 ■ローソンチケット
前売チケット ¥3,000- (+1D) / 一般発売中