第二回「譲り合いは避けたい」 / 中原健仁
先日、というか昨日。
僕らのLINE LIVE番組、通称「LITV」の撮影がありました。
その帰りに起きた、なんとも言えないお話です。
僕、真ちゃん、大喜の3人で電車に乗りまして、
最初は満席だったのですが、すぐに席が一つ空いたんです。
まず大喜が座り、次にじゃんけんで勝った真ちゃんが。
僕は真ちゃんの前に立って、3人で話していました。
しばらくして次の駅に到着。大喜の隣が空きました。
しかし、空いた席の前には、大学生っぽい娘さん。
ここまでを整理するとつまり、こんな状態です。
話していた様子を見ていたからか、
娘さんに「どうぞ」と促されました。
しかし、僕も「いえいえ、娘さんこそどうぞ」と手で応じます。
それとほぼ同時に娘さん。僕よりも優先すべき相手を見つけたのでしょう。
新しい乗客、爺に「どうぞ」と声をかけます。その距離約2m。
しかし爺もまた、僕と娘さんのやりとりを見ていたのか、
若干座りたそうでありながらも「いやいや、大丈夫だよ」と躱す。
この時点ですでに2人もの乗客に、譲り合いリレーのバトンをスルーされてしまった娘さん。
集まるギャラリー(乗客)の視線。プレイヤー(僕・娘さん・爺)に降りかかる謎のプレッシャー。
ここで終わるわけにはいかないと誰もが思ったその時。
爺が動いた。
さらに後方に居た婆に声をかけたのである。
爺「あっ、どうぞどうぞ!」
ここぞとばかりに乗っかる娘さん。
娘さん「どうぞー!!」
ここまでくると、もはや譲り合いなのかなんなのか。
まさかつい先刻までギャラリーだった自分が
4m先から謎の土俵に引き上げられるなど、ついぞ思わなかっただろう。
現役のリレー選手でも、4m先からのバトンはさすがに受け取れまい。
明らかに焦りが伺える婆。もう、頼むから座ってくれ、婆。
婆「も、もうすぐ降りるから、降りるから...だいじょうふょ...」
BAA――――――――!!!!!!
全プレイヤーの望みを絶ち切った婆、さらに奥へ行き、退場。
ただならぬ空気の中、いつもは嬉しいはずの空席が禍々しいオーラを放つ。
騒動に乗じてどこかへ消えた爺。取り残された僕と娘さん。
ダメ押しでもう一度、娘さんに声をかけてみる僕。
僕「ど、どうぞ...。」
娘さん、無言でスッと一歩下がり、伏し目がちに首を横に振る。
ああ....。これはもう、だめだ。だめなやつだ....。
諦めて魔の椅子に座しました。なんたるプレッシャー...。
譲り合う心。それは素晴らしいものです。
しかし、もし、あなたが譲っていただいたときは、
まず周りを確認してみてください。
そして大丈夫そうなら、どうかスッと座ってください。
謎のバトンリレーが始まることはきっとありません。
みんなハッピーです。椅子も禍々しいオーラなんか放ちません。
それでは、また来週!