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LAMP IN TERREN

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2020.05.27

『Enchanté』RELEASE DAY SPECIAL 公開インタビュー / OTHER

5/22 LAMP IN TERREN
『Enchanté』RELEASE DAY SPECIAL
公開インタビュー


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コロナ禍の中、松本からいつものように歌が届いた。新しい音、新しい言葉がそこには鳴っていて、まるで別の星から降り注いだかのように、明らかな変貌の光をLAMP IN TERRENは放っていた。だからこそ、このタイミングでオンラインでの生配信インタヴューを敢行した。このテキストはそのインタヴューを、少し姿を変えてお届けするものである。ありのままの自分でいることの意義、「初めまして」の世界、オンラインで繋がる不可思議ーー「国民全員強制孤独状態」ともいえる世界の中で、常に孤独と共に生き抜いてきた松本大は、新曲"Enchanté"を通して、今僕らに必要な感覚と歌を贈ってくれた。諦観ではなく、あくまで未来を自らで描くために生きる意志を語ってくれた松本の声を聴いて欲しい。あなたの世界の見方が、ほんの少し明るくなるはずだ。なおインタヴューが進むにつれ、加速度的にお互いに口調が砕けてくるが、敢えてそのまま記載している。オンラインでありながらも限りなく飾らない心のやりとりを感じて欲しい。


俺はこの世界にいるっていうことを、誰よりも発信することが正しい気がしている


◾️オンラインでのインタヴューかつ生配信という特殊な形ですが、よろしく。まず、最初に少し振り返らせてください。昨年末からは年明けにかけて、ロックバンドとしての矜持を示すかのような荒々しさを見せたツアー『Blood』(2019年11月〜12月開催)、そしてワンマンライヴ『Bloom』(2020年1月13日マイナビBLITZ赤坂)の完遂、そして過去とは全く違うニュアンスで、自らのことを赤裸々に綴った"いつものこと"を含む『Maison Diary』のリリースなど、LAMP IN TERRENにとっては、かなりの変化が生まれた時間だったと思っていて。大(松本大/Vo.&Gt.&Pf.)にとってはどんな時間でしたか?


松本大「そうだな......今までは、過去を否定しながらずっとやってきた印象が自分にあって。そこを抜け出したのが、4th Album『The Naked Blues』というアルバムだったんです(2018年12月5日リリース)。否定し続けながらも、その当時までに培った経験を持って、灰の中から蘇る感覚で創った感覚で。でも去年の『Blood』は、やっとそういう過去の否定から抜け出して、ありのままで進んでいけるツアーだった。それが自分の中では驚きで、進んでいくのが楽しかった」


◾️自分を出すことを怖がらなくなったという点が一番大きいと思っていて。今までのテレンの歌は、あくまで大/テレンの歌だったんだよね。あまりにも強い世界観を一人称で歌うが故に、聴き手にとっては、自分のこととして楽曲を聴くことが中々難しかった。でも『Blood』を完走した先で発表した"いつものこと"という曲は、まるで自分の話のようにスッと聴こえる曲で。それは、自分自身を見せ続けたことで生まれたのかな。


「ーーどちらかと言えば、過去の自分はずっと夢見がちで。自分が「こうなりたい!」という願いや祈りの中を生きていたんですよね。それは、自分の生活の中にある小さなもの......本当に普通の、小っちゃな部屋で生まれた俺の感情なんて、誰にも共感してもらえないと思って生きてきたからで。それでも、少しずつ自分の内面をそのまま出すということをしてみたら、その方がむしろ共感をしてもらえて、受けて止めてもらえて、好きだと言ってもらえたーーそれが、嬉しかった。だから、"いつものこと"のような自分の内面を素直に出せる歌を創れるようになったんだと思う。その感覚は、今まで自分が創り上げてきた夢から覚める/壊れていくという感覚があったけど、それでも俺は自分が自分であるということを証明した上で、夢や希望的観測を語る方が自分の中で辻褄が合ったんです。年齢のせいもあるのかもしれないけど、ちゃんとリアルを提示した上でじゃないと、フィクションや夢物語は語れなくなった。今になって思うと、あり触れた小さなことを歌にする勇気が必要だったんだな、って思う。それをメンバー4人みんなで自覚できたから、ようやく夢の話でも自信を持って話せるようになったし、何より、今の自分たち自身のスタイルに確信があるんじゃないかと思いますね」 


◾️"ほむらの果て"のように、俺は俺自身以外では生きられないと叫べる人間って、本当に極少数の声が大きな人にしかできないことだと思うんです。一方で"いつものこと"のように「情けないんだけど、これも自分なんだよね」みたいにポロッと本音を零している姿の方が人間らしく届く。いい意味で「松本大って人もこんなもんなんだな」って聴き手には伝わったと思うんです。その瞬間に、今まで開いていなかった聴き手の心の扉が開いたと思う。


「うん、そうなんだと思う」


◾️リリースタイミングは昨年末、つまり、現在のコロナ禍に対するリアクションではなかったにも関わらず、"いつものこと"という楽曲はサウンドとしては暖かな音像だけども、実は歌詞だけを読んでみると、とても寂しい日常の孤独を孕んだもので。今現在って、一種の全員強制孤独状態だと思うんだよね。


「(笑)。ーーそれで言うと、俺はずっとそんなもん。寂しさがずっと胸にあるし、そういう生き方をしてきてしまったから。きっと、ステージに立つ人間としての意識が大きく反映されている気がする。寂しさを抱えているのは自分だけじゃないって感じることができる一方で、自分はその感覚を発信する立場に有難いことにいて。だから、ただ頑張れって応援するよりも、俺はこの世界にいるっていうことを、誰よりも発信することが自分の心情としては正しい気がしていて。ロックスターにもなり切れない自分が、小さなことかもしれないけど自分の生活を歌うことに意味があるかなって思ってる」


◾️今誰しもが孤独を感じる中で、孤独を生きてきた大の歌はより今響く存在になっていると思う。孤独な日々に対して、悲観を持たないためにテレンの歌がより届けばいいなと思います。


「俺もそう願っています」



未来とも初めましてだけど、未来の貴方とも初めましてだなって


◾️そうやって自分自身を素直に表現できるようになった日々を経て、完成した楽曲が"Enchanté"だね。まずは、リリースおめでとうございます。


「ありがとうございます!まだ配信されて24時間経ってないね」


◾️新しくて懐かしい感覚を抱きながら、最初に音を聴きました。最近のテレンが追求していたリアルを晒すイメージというよりは、空想の世界をサウンドで描きつつも、そこにとても胸に落ちる言葉が載っているーーこのバランスが新しいな、という感覚があったんです。


「ちょっと初期の頃の自分の感覚が融合してる感覚があるんですよ。それは、さっきも話していた自分が否定してきた過去。それはきっと、自分のリアルを曝け出せるようになってきたからだと思っていて。元々、俺は音/音像で景色/絵を描くことが大好きで、そこに似合う言葉を選んで曲を創ってきた感覚があって。つまり、音が先で言葉がそのあと。だけど、歌として言葉があとになっているのはよくない、自分の中のリアルを出したいと言う気持ちもあるから、そのバランスにおいてスクラップ&ビルドを繰り返してたんだよね。ただ、いざ裸の言葉を出せるようになってみても、やっぱり俺は言葉でも絵を描きたいと思った。自分のリアルを混ぜつつ、自分の言葉の中で景色を見せたい。そのどちらもある感覚で"Enchanté"は創れたから、自分の中で1つきっかけになった曲だと思う。LAMP IN TERRENの楽曲全体として絵を描けたって思っていて、初期の頃に、自分が願っていた楽曲の姿を知識と技術で形作れるようになったな、と思う」


◾️昔、「"緑閃光"ってどうやってできたの?」って訊いたことがあったの覚えてる? その時、大は「いやできちゃったんだよ」って言ってたよね(笑)。


「うん、わかんねぇ!って(笑)」


◾️そうそう(笑)。その時とは明らかに違うってことだよね。


「そうそう。わかんないじゃなくて、ちゃんと理由を持って説明ができる。だから今の自分は、願いや夢を描いていた過去をもう否定していなくて。今まで歩んできた松本大という一人の人間として、自分にしか書けない曲になったなって思えてる。そこが気に入ってる(笑)」


◾️昔から大はジャケットやグッズの絵を描いたり、MVの監督を自らやったり、音楽以外の表現もチャレンジしてきていて。今回の"Enchanté"のYouTubeオフィシャルオーディオで使われている写真も、最近大が始めたカメラで撮ったものと聞いてます。


「ずっと、カメラはやってみたい気持ちはあったんだよね。ただ、如何せん自分が欲しかったフィルムカメラって手が届きづらくて。でも始めてみてから、自分の表現の手法を増やすきっかけになったなって思う」


◾️映像とも音とも言葉とも違う、静止画の写真を撮り始めたことで、自分の中で感覚に影響が出ているのかな。


「うん。これは自分の心理状態ともリンクしているとは思うんだけど、小さなことに目が向くようになった。だからこそ、カメラを撮るということを自意識の外で自然と選んだんだとは思う。日常の些細なことを切り取るって作業が、フィルムカメラには必要で。ただ適当に撮っていても、いい写真にはならないんだよね。自分の中でこういう写真、こういう景色に対してはこんなアプローチで撮りたいっていう発想で写真は撮っていくものだと思っているから、それは歌にも通じるものがあると思う。......一瞬を掴むっていうことを、凄く意識してるんだと思う。写真と音楽の間で反復しているイメージがありますね」


◾️写真っていうのは、その一枚の中に物語があると思うんです。大の言葉を借りれば、「小さなもの」がどのように配置されていて、どんな風に写っているかーーその世界や感覚は大きな風景を音で、小さな自分ごとを歌詞として描く、今の大の音楽のモードに相当リンクしているよね。


「うん、本当にそういうことだと思う」


◾️今話してくれたように、大の中で今新感覚で曲を書けている、と。そこに対して、"Enchanté"=「初めまして」というタイトルをつけたくなったということなのかな。


「タイトルに関しては本当に感覚だった(笑)。仮タイトルには"Spark"と"空に落ちる日"っていう2つがあったんだけど、どっちもしっくりこなくて。ーーこれは本当にカメラと同じ感覚で、ピントのボケと一緒なんだよね。自分の中での感覚で、"Enchanté"というタイトルの響きと「初めまして」という言葉の意味が、いい具合にボケてて、ちょうど良い具合にピントが合っていて伝わるものだった。悪い捉え方をすれば、響きで誤魔化しているって思われてしまうのかもしれないけど、俺としては美しいものを作りたいって意識がずっとある中で、そのバランスが一番美しいと思ったんだよね」


◾️この曲を聴いていて、「初めまして」ってこと自体を改めて考えさせられて。当然、「初対面」という意味の「初めまして」もあるけど、今感じているのは常に人は生まれ変わり続けていて、逢う度に「初めまして」を繰り返している、ということなんです。例えば、大が新しい楽曲を僕に送ってきてくれる度に、僕は生まれ変わった大と話しているように感じていて、「初めまして」の気持ちを凄く持つんですね。この楽曲は、その感覚を強く呼び起こしてきました。


「その意識は、俺もずっと強く自分の中にあるのね。目の前にいる人は以前逢った時から、いろんなことがあって、別人が目の前にいるって感覚。昔好きだった人に、逢う度に距離感を忘れるって言われたの。あ、確かに!って思ったんだけど、わかる?(笑)」


◾️うん(笑)。


「いや本当に、確かにね!って思ったんだよね。俺は、今までの自分の中の記憶で補正して貴方に逢っているけど、遭わない間にその人が知らない人になっていてもおかしくないなって思うの。だから今日、黒ちゃんとも顔を見ながらでは久しぶりに話しているけど、お互い逢ってない間に何があって、どんな変化があったかなんてわかんないよね。だから、未来とも初めましてだけど、未来の貴方とも初めましてだなって思う。その初めましてに対してのリスペクトや愛は忘れたくないなって気持ちがあるーーだから、自分の記憶の中で補正されていく大切な人はいるけど、その像に固執したくない。いつも、真っ新な気持ちで誰とでも逢いたい、と思う。......最近おじいちゃんみたいになってきて、同じ話をするようになったんだけど(笑)。


◾️ははは(笑)。


「多分、自分の考えていることを反芻しているってことでもあるんだけど、「それ、前も聞いたよ!」って言われることがある。そういう変化が自分の中である!」


◾️きっと自分より1ミリでも外で起きている出来事に対して、リスペクトを持っているからだよね。すべてに対して新鮮な気持ちで、初めましてを何度も繰り返しているから、自分にとって大切な話で何度も自己紹介をするんだろうね。


「そう、知って欲しいんだと思う。今の自分はこんな感じですってこと。自分の中にある大切な信念みたいなものでさえ、過ごしていく日常の中で変わっていくーー風化して、成長して、劣化していく。だから、毎回ちゃんと自分のことを話したいって思ってるんだと思う」


◾️その気持ちは、"Enchanté"に本当に色濃く出ていると思う。歌詞の中に<世界にときめいていたいよ>という一節があるよね。これは昔の松本大からは絶対に出てこない言葉ですよ。恥ずかしくて書けなかったでしょう?


「......はい、そうですね...(苦笑)」


◾️(笑)。それくらい、今大は外の世界/人に対して恋心にも似たリスペクトを持っているということだと思うんです。この歌は新たな世界に対して心の赴くまま行こう!という応援歌としても、はたまた、熱の高いラヴソングとも取れるよね。きっとそのどちらのニュアンスも、大の心のモード感なんだろうね。


「うん、そうだね。でも、正直<空に落ちたい>という歌詞は伝わらないかなって思ってて。ーーこういう場所で歌詞のことを話すのは、正直どうなんだろう?って気持ちもありつつなんだけど......想像して欲しい領域でもあるから」


◾️じゃあ少し勉強っぽく推測をしてみようか(笑)。例えば、<空>という単語を持つ楽曲で、きっとテレンの歴史で一番強い印象を持っているのは"ボイド"という楽曲だと思います。あの歌では、空は虚空ーー虚しさ、喪失の象徴として描かれているよね。


「俺の中ので空に対する認識は空っぽ、何もないっていう認識で、ボイドの時と変わってないんだよね。でも逆に言うと、何もない場所なのであれば、自分で描いていけるとも思うのよ。極端な話、自分が見たい世界を反映させることができるかもしれない。でも逆に言えば、未来には何もないと思ってる、空と一緒で。空っぽで、何もなくて、色もなくて、真っ白なところだと思うのね。だからね、未来には向かいたくて向かってるんじゃないと思う。ーー極端に言うと、死にたくないじゃん。けど、未来に行ったらいつか死ななきゃいけない。でも行かなくちゃいけないーーそう、背中を押されてしまうんだよ。その感じが、飛んでいるようで落ちているーー進まざるを得ない未来に対して前向きでいるために、空に落ちるという言葉を使っているーー伝わるかな。


◾️「前向きに何もない未来へ落ちる」と言うことだよね。さっきの話で言うと、常に「初めまして」で世界が進んでいくのであれば、そのことに無自覚で何も知らずに生きていくと、何も自分では選択ができずに未来に落ちていくと思う。ただ、大の言う「無の未来」で選択を迫られた時に、知らないという自らを自覚して知識や想いを積み重ねていれば、自ら選択ができる可能性が出てくる。だから、リスペクトを持って初めましてを繰り返すことができれば、決してネガティヴではない形で空に対して落ちていく、と言うことができるのかな、と個人的には感じてます。


「うんうん。端的なイメージだとスカイダイビングに近いかな。凄く気持ちがいいし、自然を感じられるけど、その実、落ちている。けど、そのジャンプは希望に溢れたものだったりもする」


このバンドの持っている世界は、もう俺一人じゃ成立できない


◾️その映像は凄くリアルに音に出ていると思う。空感ーー空間系のエフェクトと隙間のある音の組み立てが浮遊感のあるサウンドスケープになって、その効果を引き出しているよね。


「<今空に飛び込んでいく僕ら>の空に飛び込む感じは凄いよね。擬似体験ができて、本当に気持ちがいいなと思ってる。サウンドだけでも自分の表現したいことができているんだけど、それの功績は実は真ちゃん(大屋真太郎/Gt.)が大きくて。Aメロから1サビにいくときに、いきなり転調してコードとしては落ちるのよ。俺はこの表現手法は知らなくて、真ちゃんのおかげでサビで「落ちる」イメージが凄く出せたことで、より自分のイメージに近づいて。自分の中でも、この曲は過去と今の自分の感覚が融合した感覚はあったんだけど、バンドとしても、バンドでアレンジした"!って言い切れる曲だと思う。今ね、とにかくバンドが成長している、そこは推したい(笑)」


◾️"いつものこと "も、確か真ちゃんがコード付け直していたよね?


「そうそう!」


◾️個人的には、ラスサビの健仁(中原健仁/Ba,)と大喜(川口大喜/Dr.)の二人のダイナミズムの付け方は最高だったよ。


「健仁もそうだし、大喜も何回もビートを動画で送りつけてきて。それを繰り返していたよ」


◾️大が創るデモって、基本的にほとんどの音が入っている完成系のものじゃないですか。以前は割とデモで完成形が見えてたけど、最近はメンバーとアレンジを詰めた後、楽曲が相当姿を変える印象は確かにあります。


「それはあるね。ちゃんとメンバーで創っている感じがあって、逆に俺は凄く自由になった。各々の役割分担ができて、俺は俺の役割に集中できるようになった」


◾️それは、0から1を作る役割?


「そこもそうだし、全体の音像感とか歌詞の世界観とかも、かな。今は、メンバーからのリアクションがしっかりあるから、メンバーのお陰で自分だけじゃ見えなかったものがしっかり見えてくる。4人の中心点を目指せばいいから、自分一人よりも全然迷わないんだよね。そうやって曲の雰囲気ができてくると、自然と言葉も出てくるし」


◾️じゃあその成長速度だと、大はある意味、毎回知らないメンバーと「初めまして」をして一緒に曲を創っている感じだね。


「お前、そんなことできるようになったの!ってよくあるからね(笑)。ーーLAMP IN TERRENとしての音楽ができているなって思う。このバンドの持っている世界は、もう俺一人じゃ成立できない」


◾️この1曲を通して、大の中での表現のハマり所、そしてバンド自体の姿も見えてきたっていうのは、本当に大きいことだね。


「本当にそう。"いつものこと"の時から片鱗はあったけど、確信した。これはバンドっていう生命体だって思う。一体、この感覚でバンドをやれている人間ってどれだけいるのだろう?ーー自分で言うも変だけど、自分でやっていることが本当に特別だと思う。日常で言えば全然大したことはない暮らしなんだよ。自分がやっていることが特別だっていう感情は、人間誰しもが感じていいものだと思うんだけど、俺もまた俺で、今自分がやっていることが特別だって思えてる。俺らにはアレンジャーもプロデューサーもいないから、4人だけですべて完結していて。凄く気持ちいいよ、自分たちだけでやるって(笑)。もちろん、お互いに足りない部分を埋めるようにぶつかることはあるけど」


◾️去年のツアー『Blood』の初日(2019年11月1日下北沢CLUB251)に、予定にはないダブルアンコールとして未発表だった"いつものこと"を大が弾き語りで披露したじゃないですか。「新曲できたんで聴いてください」って(笑)。


「今日はやらなくていいんじゃない?ってなってたんだけど、俺がやりたくなっちゃったんだよね。だから本当に独りで、ステージに出て演奏を始めたんだけどーー」


◾️2コーラス目から、メンバーが徐々にステージに登場して大に合わせて演奏をし始めたんだよね。まるで、予定されていた演出だったかのように見えたかもしれないけど、あれは本当に予定していなかったこと。僕は、あの日に観た大を含めたメンバーの表情が凄く残っていて。互いへの愛情を心から感じた瞬間だった。あの辺りから、バンドという生命体としての力がこれまで以上に凄く宿っていたんだなって思います。


「......うん」


直接会っていたら俺には俺の姿は見えない


◾️少し話はそれたけど、大としてもバンドとしても生まれ変わった状態で、文字通り「初めまして」をするには納得のいくシングルができたんだと思います。そんなシングルの配信が決まっていてたのに関わらず、あなたは本当に急に新曲のデモを発表しました(笑)。


「"宇宙船六畳間号"、ね。俺が待ち切れなかったんだろうね(笑)」


◾️この曲はタイミングも含めて考えると、本当にふと書いた曲だったのかな?


「ーーもしかしたら、素直に話し過ぎると嫌われてしまうかもしれないんだけど......周りがね、この期間だからこそ色々なやり方でリスナーと一緒に音楽を創ったり、共有していこうとしていたんだけど、俺自身はそこに違和感があって。それで、こんな時だからできる曲があるのかもしれないなと思って、何も考えずに曲を創ってみようと思ったのね。それででき上がったものに対して「あ、これは荒削りのまま1回聴いてもらった方がいいかもしれない」と思った。歌詞を書いていく中で、自分の部屋を宇宙船のように感じていたっていう想いがまず最初にあって。今も正にそうだけど、こうやってパソコンを通して、外にも出られずにインターネットの窓から世界を見ている感覚ーーこれは誰もがそうだな、みんな同じだなって思った時に、あくまで自分独りで創ったものを聴いてもらいたいと思ったんだよね」


◾️大が思ってた通り、この曲はみんな同じ気持ちで聴いたと思う。みんなが部屋で、パソコンやスマホーー歌詞にある<小さく光る窓>を通して。そして、その繋がりだけが今は僕らの世界なわけだよね。そもそも、こうやってインタヴューをガッチリとオンラインでやる日が来るなんて思いもしなかった。ただ、今世界に感じている感覚っていうのは、この後訪れる新しい日常において、悪い意味ではなく、必ず引き摺るものだと思うんだよね。オンラインでしか人と繋がることができなかった時代/時期がありましたっていうことは、必ず残ってしまうことで。だからこそ、新しい日常が訪れてからまた大が新しい歌を歌っていくために、今この瞬間に抱いた感覚をそのまま歌にできたのは、とても大きいことだと思う。


「ーー俺はあんまり意識し過ぎない方がいいのかもしれないと思う。自分の日記をそのままアートに膨らましていく方が、自分の話ができる。こんな景色を創ろう、こんな夢を見よう、こういう希望の中に居ようーーそうやって考えるよりも、「今日はこんなことがあった」ってまずは書き留めてから、自分と会話しながら創るのがいいと思っていて。敢えて強い言葉で言うなら、世の中に対して歌うことには興味がなくて、あくまで、自然と世の中から影響を受けた自分が日記を書くだけ......そんな感覚で創っているかな。ーー俺がこじんまりとした人間だから、心の中にあることを歌ったら共感してもらえるのかな?って最近は思ってきた。きっとね、みんな普通なのよ。どんなスターだって、悪口言われたら傷がつくし、みんな小さな生活の中にいる。でも俺は、誰よりもスターのような存在でいることを放棄しているから、より小さなことを歌にできることが持ち味なんじゃないかって最近は思ってて。俺にしかできないことってなんだろうな?って考えていたけど、自分の小さいことを見つめて表現していくことだなって今は思いますね。


◾️今のバランス感覚で、大とメンバーみんなが創る歌を沢山聴きたいな、と思います。


「まぁ、明日どう思っているか、変わっているか、全然わからないけど......でも感覚的に今はこれが性に合っているんだなと思う。ーー次のアルバムはそうなっていくと思う」


◾️アルバムの話なんてしてもいいの?(苦笑)。


「まぁね、アルバムは出したいと言ったからね」


◾️じゃあアルバムの話が出たので、少し先の話をしますが、10月から始まるツアーを先日発表したよね。今、ツアーを発表するっていうことは、正直チャレンジングなことだと思うのね。


「うん、困惑している人もいるとは思う」


◾️この発表に関しては、メンバーとしての意思が強かったの?


「そうだよ。だって、目標がないのは辛い。できるかどうかはまだわからないよ? これからの世の中の動き、一人ひとりの努力......いろんなことが関わってくる。だけど何も先にないのは、生き甲斐がないし、ワクワクしない。目標を設定するのって凄く大切だなって思うんだよ。だからまだやれるかはわからないけど、何か一緒に頑張っていこうぜっていう目標を設定したかった」


◾️メンバー自身にとっても、聴いてくれる人にとっても糧になるということだよね。


「うん。第一ね、オンラインはこれから先の世の中でも普通にはなっていくと思うけど、やっぱりこれって不健全よ。直接逢わないのは不健全」


◾️どういうところで、大はその不健全さを特に感じてる?


「会話のテンション感もそうだし、タイミングだけでも感じてる。まずさ、そもそも心なんてものは見えないのよ。でもそれを自分の身振り手振りも含めて心の一つとするなら、それが見えない状態で会話しているのは不健全だなって思う。ーーしかも、このパソコンの画面には俺自身も写っているからね。自分で自分に話しかけている状態でもある。


◾️ーー確かに、それは本当にそうだね。


「そうでしょ? だって直接会っていたら俺には俺の姿は見えないんだから。俺は自分の身振り手振りを最大限使って会話をするけど、俺には俺のことが見えない。そうなればなるほど、心は裸の状態になっていくと思うんだよね。でも、こうやって自分の姿が見えていると、見栄を張っちゃう部分が正直ある」


◾️自分の存在って、そもそも他者にしか認識できないものだから、自分の姿が見えてしまうと恥ずかしいこともできないよね。そもそも大は、自分と他者/世界との関係性の中で歌を紡いできたと思うから、余計その感覚があるのかもしれないね。


「そう。ーーだから、ツアーの話に戻ると、健全な状態の目標は欲しかったし、共有したかったっていうのが一番大きい」


◾️うんうん......アルバムは期待してていいですか?


「鋭意制作中ですよ」


◾️俺はとにかくね、ツアーにちゃんとアルバムが間に合うかどうかを心配しているよ。これ冗談じゃないからな。


「......痛え(苦笑)。うん、締め切り守らないで有名だからな(笑)」


◾️いや本当に笑い事じゃない。


「いや本当にそうだね、頑張ります(笑)」


◾️待ってます。ツアーができる世界が訪れていれば、いろんな意味で世界も生まれ変わってると思う。バンドとしても完全に新しい世界で、皆さんと「初めまして」を果たせたらいいね。


「うん、本当に頑張ります。黒ちゃん、今日はありがとう。皆様"Enchanté"をよろしく!!」



interview&text 黒澤圭介


『Enchanté』2020.5.22 Digital Release