「fantasia」セルフライナーノーツ 松本編 / 松本大
"fantasia" について
机に向かって早10分。何から書けばいいものか。迷った挙句、そのままこの状況をお伝えするところから始めます。
さて、僕以外の3人が先に書いてくれたライナーノーツ、読んでいただけたでしょうか。ちなみに僕はまだ読んでいません。3人ともお互いのを言葉を知らぬまま、アルバム『fantasia』について書いてくれたので、僕も僕だけの目線でこのアルバムのお話しをしたいと思います。少々長くなるかと思いますが、なるべく簡潔に、濃密に書きますので、よかったら最後までお付き合いください。
では、始めます。
♯1 / キャラバン
「人生とは旅をすること 旅をするとは生きるということ」こんな感じのことをあらゆる人が言っていて、僕もまた同じように思います。その旅というのは時に孤独であり、時に手を繋いでいて、時に自分だけではない誰かの為になる瞬間もあると思っています。自分以外の誰かがいないと自分の事を証明できないのに、結局はみんな孤独で、突き詰めるときっと矛盾にもなるのに、こんな風に他にもたくさんの矛盾が矛盾として存在するからこそ成立する世界でもあるのかな、と常々思います。そんな中で僕らが今手に取っている「音楽」というのは、孤独でもあれば、手を繋ぐものでもあり、孤独だから言葉にできることを、みんなで音楽にしていくもの。僕1人が歌っているだけでは、曲の景色や形を伝えることはできず、4人で「歌」にすることで「バンド」という器になっていて、4人がただそれを鳴らしているだけでは器のままでしかなく、受け取ってくれるみんながいて、聴いてくれて初めて、器の中に命を吹き込まれて「音楽」として生き物になるような。この方程式を僕らは使っていきます。この「音楽」が僕を含めたみんなの人生の中で、ずっと一緒に旅をしていられますように。
♯2 / 地球儀
空想の中でならどこにでもいける。なんでもできる。心の中には全てが思い通りになる小さな星がある気がします。手中に収まるそれは地球儀みたいだなぁと思いました。きっと、僕の心の中にもある小さな星を、あなたがどれだけ目を凝らして見てもそれは模型のようなものですから。この星を動かすことができるのは世界で唯一僕だけで、そんな星があなたの中にもあると思う。僕には模型にしか見えないでしょう。それが模型のままで終わらないように、心の外まで持っていかなきゃいけない。言葉にしなくちゃいけない。いつまでも空想に耽っていたいなぁって僕もよく思います。だけど、それを心の中に留めていても何でもないんだろうなぁとも思います。自分にとって意味のあるもの、大切なことを、自分以外の人たちにも「こいつはこれが大切なんだな」って気付いてもらうには、言葉にしたり、行動で示したり、ドアを開いて日常に飛び込んでいかなきゃ。それが怖くなる日は、僕はこの音に乗って、歌にしていくことで息をするのと同じように、この音と一緒に自分の向かうべき日常へ繰り出して行こう。それがどこであろうと、いつもそばにいます。輝いてみせます。
♯3 / 涙星群の夜
夜空に流れる星に願うより、願いを叶えたいという想いが流す涙の星の方がよほど願いを叶えそうだ、というのがこの曲を書くきっかけでした。それは僕が自分自身に言い聞かせたいことでもあっただろうし、同時にみなさんにも届けたい想いでもあり、歌っている僕らと受け取ってくれるみなさんが同じ方向で一緒に走っていけるな、とこれまでにないくらいの確信を見付けた感覚でした。衣食住のどれでもない音楽。紫外線や人の目線から守ってやれないし、お腹いっぱいにはさせてあげられないし、雨は凌げない。生きる上では必要ないかもしれないものを大切にしたいし、大切にされたい。もしかしたら言葉の槍から守る盾にはなれるかもしれない。心は満たせるかもしれない。不安や挫折の雨は凌げるかもしれない。望みを掴む瞬間まで一緒に走っていける。その先もまた次の望みに向かって走っていける。僕らだけが使える魔法。
♯4 / heartbeat
歌う意味。俺らじゃなきゃいけない理由。なにもわからなかった。言いたいことなんてないと思っていました。というより、僕が言いたいことをそのまま歌にしていていい訳がないと思っていました。だからせめて自分が聴いていて納得できるように、ありのままの言葉を色んな視点から見ていたし、何重もフィルターを通したりした日もありました。そんな日は決まって自分でも核の部分がわからなくなったりして、この曲は特にそういう部分で壁に触れていました。そして初めて、この曲を書いているタイミングで「音楽続けられないな」と思いました。5月とか、6月とかの話だったと思います。こんな自分が続けていいと思えないまま、ROCK IN JAPANでの初披露を迎えました。本当はこんなこと言葉にしたくないですね。わらい。だけどね。納得できないままみなさんに届けたこと、だからこそ夏フェス期間中どんどん姿を変えていったこと、アーティストとしては恥ずかしいことかもしれませんが、この曲は特に、みんなと作った気がします。見付けてくれてありがとう。
♯5 / innocence
これでよかった。ってあとどれくらい思えるだろう。幸い、この曲を書いた22歳の時点では手に余りがあるほどには「よかったな」と言えたことはあったけど、やっぱり基本的にどこか疑問や不信を抱えつつ生きている瞬間の方が多い気がする。おそらくその数が人生の9割以上を占めているでしょう。今でもその疑問や不信感を抱く日があることに変わりはないから。記憶がないというのは切ない。ゲームを始める時にキャラクターを作る過程があるのと同じように、人生にもあったらいいのに。もしかしたらあったのかもしれないけれど、生まれる前の記憶なんて思い出せないし、もうどうしようもない。どうしようもない僕らは始まってしまった人生の中で、今で正当化するしかない。色んな言い方で正当化できるとは思うけど、この思考そのものが無駄な気もした。わからないけど僕らは生きていて、どうやったって未来に進んでしまうし、立ち止まっていても終わりは迫ってくる。走って逃げたらその倍のスピードで追ってくる。逃げられないなら未来へ行く。「これでよかった」って何度でも言うために。
♯6 / at (liberty)
勝ち取る自由のことを「liberty」というらしいんですね。でも自由って勝ち取ったところで、不自由を感じなければ存在し続けることはないと思っています。たとえば学校には校則というルールがあって、たとえば必要ないものは持ってきてはいけないとか、頭髪がどうとか、遅刻が通信簿に響くとか。人間関係でもある一定のルールがあると思います。仮にこれらがなくなったとしたら、その分楽しいことも減るのではないか、と思います。ただ自由が広がっているというのは、空に浮かんでいることと同じだと思います。何にも触れられず、走ることもなく、なにかを達成することもなければ変化もしない。ルールがあるから、そこから抜け出すことが楽しくて、思い通りにならない相手がいるから、分かり合えた時に嬉しい。だけど、だからといって不自由がいいというわけではないと思う。自由に向かう気持ちは大事。より良い人生であるために。ただ、どこまでいっても不自由が付きまとう。いつでも自由はある。勝ち取っていける。その度に現れる次の敵から、俺は逃げたくない。
♯7 / pellucid
「嘘をつきます。背伸びします。見栄だって張ります。自分を良く見せたいからです。」これってすごく素直だなぁと思います。誰にってわけではなく、自分自身に。もし僕が嘘つかれる側だったら、裏切られたと思う反面、「かわいいな」とか思ってしまうでしょう。まぁ許すかどうかは置いといて、その行為自体はとても正直なことだと思う。だから、本気で嘘を突き通したいのなら、絶対に悟られちゃいけない。逆に、誰かの言葉が嘘だと気付いた瞬間に、「裏切られた」という想いだけに囚われてほしくない。みんな自分を良く見せたい。だけど結果的に誰かを傷つけてしまうかもしれないから、できるだけその可能性は最初から潰す。ルールというよりは心得。嘘は良くない。当たり前。だから許せない。わかるよ。壁は高ければ高いほど越えるのは難しい。自分を守るために高く築いた壁は、次第に自分すら阻むものになる。とても窮屈になる。無理はしなくていい。だけど、少しだけ。嘘の中にある真意を優しく手に取ることができれば、嘘をつかれたあなたにとって、痛みだけで終わらないと思うから。
♯8 / オフコース
時間が色んなものを食べていった。思い出になったであろう1日も、部屋でだらけている内に時間が食べていった。当たり前が当たり前である間に特別を見出すのは難しい。だからといっていつでもなんでも特別だと思って過ごすというのも、なんだか薄れていきそうでそれも違う気がした。何気なくこの曲が通り過ぎていってもいい。たまに、言葉が引っかかった時に、大切にしたいと思えた時に、その手助けをできたらいい。いつも生活の中に音楽がなくたっていい。この曲自体が「当たり前」に飲み込まれてもいい。きっとうだうだしていても、忙しなく過ごしていても、いずれ時間が食べていってしまうから。ただ、思い出した時に、もしくは思い出すきっかけとしての言葉や音があってもいいのかなと思う。大切なのは音楽ではないと思うから。すべてはみなさんの心だと思います。素敵だと思ったり、くだらないと思ったり、そこまでは計り知れないですが、どちらにせよそのきっかけのひとつとして僕は存在していると思うし、僕のきっかけにはいつもみなさんがいます。
♯9 / 不死身と七不思議
この曲はあまり自分で書いた感覚がないです。この曲の登場人物が勝手に話を進めていったような感覚。だからあんまり話せることがない。毎日繰り返してんなぁ、毎日同じだなぁ、死んでるのと変わらないかもなぁ、でも生きてるしなぁ。とふわふわしていたのが始まりだったのは憶えています。でも、自分がこの歌詞を書いたということ自体がわりと衝撃だったような。そういえば"オフコース"の余談でもありますが、「雲ひとつない晴れ空」というのが苦手です。箱の中にいるような気分になります。不思議です。こんな風に不思議に思えることがたくさんあります。ちょっとひねくれてみれば視界に入るものすべてに「なんで?」って言えます。木が木である理由。道路がコンクリートである意味。なぜ人生を全うしなければいけないのか。エトセトラ。今は適当に並べてみましたが、ちょっと考えればすぐに答えが出る馬鹿なものもあれば、おそらく永久に答えが出ないであろうことまで。最近はなにかしら理由付けすることで、わかった気になっているのが少しだけ楽しいのかもしれない。
♯10 / eve
春にだけ桜が咲くから、どうしてもその時期だけは自分の足跡を辿ります。ここまでどうやってきたか。何を考えていたか。どこでつまずいたか。全く変化がない立ち止まった年もあれば、辿るのも困難なくらい過去という旗から遠ざかっている年もあり、それを思い知らせる桜に対して若干後ろ向きな気持ちになったりします。どちらにしても過去を振り返るという作業はとても切ないもので、何も変わっていない自分には悔しくなるし、遠くまで歩いてきていると懐かしく感じる自体が寂しくて、けれど春だけは、必ずこれまでを振り返るようにすると決めています。正直な話をすると、自分の過去と今に矛盾が生じるのがずっと怖かった。崩れてしまいそうで、崩してしまいそうだったから。自分のことも自分が生きる世界のことも。そうしている内にいつの間にか鎧を着込むようになり、雁字搦めになっていて、崩れない代わりにもしも崩れる時は盛大に壊れてしまいそうな、そんな感じになっていました。それは立ち止まっているような、成長できないような感覚。これまでのことは忘れてしまわないと新しい自分にはなれない。後ろ髪を引かれて臆病になってしまうから。ただ、全てを忘れてしまうのはそれはそれで悲しいから、春だけは思い出します。また新しい旅を始めるために。とても個人的だったこの曲を世に出すということが自分の中ではとても大きな一歩だったと思います。もう戻れない。わかっていたけど、踏み出すのもおそろしかった。今、全ての「今まで」があって、「一歩目」があったから、あれほどおそろしいと思っていた過去の自分に言えることがあるとすれば、今の自分は好きだよってちゃんと胸を張って言える。
♯fantasia
この文章の中で何度も書いているかもしれませんが、僕にとっては「きっかけ」のアルバムです。僕だけではなく、このアルバムが届いた全ての人にとって「きっかけ」であればいいなぁと思っています。ここから始まるものがあるから。全てが過去になった。僕にとっても、これを読んでいる皆さんにとっても、アルバムを作ったことや、届けたことが全部歴史になった。だからまた新しい景色を見せるために旅をする。皆にもきっと旅がある。日常が、生活があって僕らの音楽で一緒に紡いだことよりたくさんの想いが溢れる世界がある。きっと変わっていくでしょう。これからも届ける僕らの音楽がまた、ひとりひとり違う響き方をして、そのどれもが素晴らしくなるように歌っていきます。いつまでも皆のそばにいたい。僕らには僕らの旅があり、皆さんには皆さんの旅があるけれど、それを繋ぐのが音楽だと思っているので、決して離れることはないと思う。いつもそばにいます。これからもたくさんの景色を見せてください。俺らもたくさん歌っていきます。ふたつ合わせて、景色を作っていこう。物語にしよう。音を鳴らそう。そのどれもが、どこまでも響いていきますように。
最後まで読んでくれてありがとう。続きはツアーで話そうね。