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2015.05.27

真実と。 / 松本大

やられた。



うちには犬がいます。名前は「トゥルー」という。犬種はミニチュアダックスフント。女の子。口癖は「フゴッ」。今年17歳になるか。



たしか俺が幼稚園だったか、小学校だったかの頃に「犬飼いてえ」とかせびったのだと思う。人間年齢でいくと今84歳ぐらいらしい。



幼少期はとにかく落ち着きがなかった。好奇心が旺盛すぎた。知らない場所はいつまでもウロウロ。知らない人には けたたましく吠え倒し、なんでも食べる。本当になんでも食べる。それ以外にも多々迷惑をかけられた。今も。かくかくしかじかで今は熊本にある実家から、遠路遥々上京してきた。



おばあちゃんになった今、飛び跳ねたり駆けずり回ることはなくなったものの、ウロウロしたり吠えたりというのは健在で、まさに今、近所の公園の一角でよたよたウロウロしている。今思えば落ち着きがないというより、臆病だったのかな。いや、そうだな。その方がしっくりくる。



それ以外に変わったことと言えば、白内障で目が見えていないこと、耳が一切聞こえていないことかなぁ。たぶんこの子は嗅覚だけを頼りに生きてる。嗅覚だけで俺を認識してる。




そんな彼女をなぜ公園に連れてきたかというと、今、干しています。干すという表現が1番適していると思う。



今日の仕事は確認作業がひとつだけだった。アルバムのジャケットの確認。これはかなり良い出来だと思う。7月1日をお楽しみに。



マネージャーと昼ご飯を食べて帰宅するとその惨事は広がっていた。






まず目に飛び込んできた物をすぐに理解できた。鶏肉が食い散らかされていた。



リビング一帯に広がる肉片と、おそらく油分が原因と思われる足跡。あと排泄物。パックの残骸。残されていた大根が惨劇をさらに強調して見えた。



トイレだけならよくある事だった。年を取ってから、外に出る事を極端に拒んできた彼女は、基本家の中から動かない。家が落ち着くんだと思う。なので狙いはよく外すものの、シートを用意していた。トイレ用の。というかその生活に慣れてしまった俺も、外はいいかとかどこかで思ってた。良くねぇな。逆に自分が犬だったとして、牢獄に思えてきそう。どうなんだろう。それより怖いが勝つのかな。しかしまぁ今日はまぁー酷かった。まぁ酷かった。まぁ。



とりあえず風呂に突っ込んで、部屋は雑に片した。シャワーで洗う、見境なく食べ物を詰め込んで張ったお腹が更に苛立ちを増幅させる、もう面倒くさくなっていつもならドライヤーで乾かしてやるところ、公園で干すに至っています。



そもそも鶏肉ってどうなのよ。ナマで食うってどうなのよ。ヤバいんじゃないかなぁ。けど今まで、玉ねぎ食ってもチョコ食っても平気そうだったし大丈夫かなぁ。それら全部吐いてたけど。今日もいつも通り吐いてたけど。じゃあ食うなよ。わかんねぇかそんなの。わかんねぇよなぁ。



公園まで来る途中、すれ違った人が皆心配そうな目をしていた。捨てに行く訳じゃねぇよヅラで、抱えたびしょ濡れの毛むくじゃらを公園に連れてきた。今日は晴れてるから悲惨な姿はなお際立ったと思う。




さて、未だ目の前をウロウロしているこの愛犬。たまにしか会わない時はその一瞬一瞬がとても愛おしかった。今目の前にいるのに切なくなるくらい。両親に対しても同じ感情があったと思う。しかしいざ一緒に住んでみるとこれがまた大変なのです。前述の通りです。けど今改まってみるととても切ない。こういうことを改めないと考えにすら至らない自分に歯痒くもなる。



色のない世界はどんな感じなんだろう。音のない世界はどんな感じなんだろう。お前に声が届かない俺の世界は今、お前がよくわかんねぇ中で生きてるのとは打って変わって、形が見えるぐらいに確かな感情に取り囲まれているよ。



いつか俺もお前と同じ事を体験する日が来るかもしれない。体験しないまま死ぬかもしれない。終点は同じところにある。



勝手に教わってるよ。この感情も、現実も。今までも、今もそう。そんでお前が居なくなる時にまたひとつ教わる事があると思う。居なくなるのは俺の方が先かもね。わかんないからね。



とにもかくにも今、生きていてくれてありがとう。って言っておきながらまたいつもの日々に戻ると思う。俺は面倒くさがるし、君は家から出ることも、シャワーも嫌がると思う。



忘れないように努力するよ。あの頃爪先立ちばっかりして、見栄ばっかり張ってた俺の近くで「真実」って名付けた君と出会えましたから。色んな物貰ったから返せるように努めます。ていうか割と気にかけてるけどねお前のこと。



うお、すっげぇでけぇ犬が来た。お前には見えんだろうがすげぇでけぇ。帰ろう。乾いたね。帰ろう帰ろう。



夕方だったからともいうのもあるのか、気付いたら鼻歌が緑閃光だった。自分の曲かよ。